尿検査は、学校検診や職場検診などで一般的に行われている検査です。これは非常に簡単でコストもかからない検査ですが、腎臓の状態を的確に判断する方法として、診断的価値の高い検査の一つです。実は尿を調べることは、今から約二千四百年前のヒポクラテスの時代から病気を知る手がかりとして、その色や臭(にお)い、量の異常が観察されていました。現代では尿検査により、量、比重、蛋白尿(たんぱくにょう)、糖尿、血尿、各種の細胞など多くの情報がわかります。今回はその中から、蛋白尿について書いてみたいと思います。
蛋白尿とは、文字通り尿から蛋白が出ている状態です。正常人においても一日百ミリグラムまでの尿蛋白は認められますが、通常一日百五十ミリグラム以上みられる場合を有意な蛋白尿としています。検診などで、蛋白尿が出ていると言われても慌てることはありません。ただし早めに病院で再検査を受ける必要があります。再検査で陰性のこともよくありますが、これは単に一過性に蛋白尿がみられた場合です。
一過性の蛋白尿とは、起立などにより生ずる体位性蛋白尿と運動・高熱・痙攣(けいれん)などによる機能性蛋白尿を示します。一過性の蛋白尿であれば良性のものと考えられ、そのまま様子をみます。ただし年に一回程度の検診は受けた方が良いでしょう。
これに対して、持続性の蛋白尿は腎炎、糖尿病、膠原(こうげん)病や尿細管障害などが原因でみられます。糖尿病などの基礎疾患がなければ一般的に疑われるのは腎炎という病気です。腎炎には急性腎炎と慢性腎炎があります。急性腎炎は突然、血尿、浮腫、高血圧などがみられますが、すぐに良くなります。偶然、検診で見つかり何の症状もみられない場合は慢性腎炎が疑われます。この病気は静かに発症し、静かに進行する病気といわれています。実際、持続性の蛋白尿がみられ慢性腎炎と診断されてから尿中の蛋白量が増加し、腎臓がダメージを受けるまで数年から十年以上かかります。この長い経過を経て尿が出にくくなり、血圧が上がったり、むくみがみられたりします。最終的に末期腎不全の状態になると透析療法や腎移植などの治療が必要になります。しかし、いずれの治療も患者さん自身の肉体的、精神的な負担が大きく、このため腎炎と診断された場合は早めに治療する必要があります。最近ではアンギオテンシン受容体拮抗薬など蛋白尿を減少させる効果のある薬も出ています。
日本では腎臓移植が盛んではないため、末期腎不全の状態になると透析療法を受ける患者さんがほとんどです。現在、日本の透析人口は約二十四万人であり、年間約八千人もの増加がみられています。透析導入症例では糖尿病性腎症が最も多く、次に慢性腎炎となっています。将来的に透析治療を受けないためにも蛋白尿がみられた場合は腎臓病の早期発見、早期治療すること、生活習慣病の予防が重要です。