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働く人の心の健康づくり(2005年2月1日掲載)

山本 和儀(山本クリニック)

増える自殺、過労死認定

休暇取りやすい職場環境を

わが国では自殺者数が年間三万人を超える状態が一九九八年から続いており、沖縄県でも年間三百人を超え、二〇〇三年度は三百七十一人とワースト記録に並んだ。まもなく発表される昨年の数字も、恐らく改善しているとは思えない。過労自殺認定される方も増え続けており、厚生労働省は労働安全衛生法の改定を含めた過重労働による健康障害・メンタルヘルス対策を進めている。

企業や公的機関ではメンタルヘルス不全で休職する職員が増え、わたくしどものような心療内科やメンタルヘルスクリニックを訪れる患者さんの数も毎年増加し、〇三年には二万七千六百五十八人に達した。実に県民五十人に一人の割合である。開業以来の診療統計を整理してみると、患者さんの数は三十歳代の働き盛りが最も多く、次いで四十歳代、二十歳代、五十歳代の順で多かった。若い人の雇用を控えた企業では、後輩も少ない上に五十歳代の先輩以上に新しい企業戦略に対応できる能力を買われ、管理的な仕事も任されるなど、若手の負担が重くなっているようだ。

公務員の場合も、民営化、市場化をねらった業務改善、男女共同参画、情報の開示、IT化など時代の変革の波から免れることはできず、現場の担当者の悲鳴が聞こえてくる。女性にも新しい働き方が求められている。

病気として多いのはうつ病だ。多くの仕事を抱え、残業や休日出勤で疲労を蓄積し、上司や、同僚、顧客との人間関係で心をすり減らし、次第に元気を失っていく。なかなか回復しないけん怠感、食欲不振、心身の不調、睡眠障害、意欲の低下などを自覚したら、うつ病ではないかと疑った方がいい。抑うつ気分、気が晴れない、楽しめないなどの症状が二週間以上続いている場合、その可能性はぐっと高まる。

ほかには過敏性腸症候群、自律神経失調症などの心身症、パニック障害、恐怖症などの神経症、不眠解消のための飲酒から始まったアルコール依存症の患者さんも多く受診される。高血圧症、糖尿病などの生活習慣病もストレスへの過剰適応による不健康な生活習慣から生まれる。

心身ともに健康で、元気な生活を送るためには、日々のストレス(心身のひずみ)を解消するための休養や運動、自分に合ったリラックス法の習得に加え、年休やリフレッシュ休暇の取りやすい職場作りが重要と思われる。効率優先の職場を、和気あいあい、皆で支えあう職場に戻すことも大事に思われる。企業では管理職によるメンタルヘルスケア、特に積極的傾聴法の研修会も盛んに取り組まれている。産業医や産業看護職にとって、メンタルヘルスケアが避けて通れない業務となって久しい。かかりつけ医が体の不調・病気のみならず、患者さんの悩みや気持ちについても受け止め、抗うつ薬や、抗不安薬、睡眠導入剤などで適切に対応し、数週間たっても改善しない場合に精神科・心療内科の専門医に紹介するといった医療機関同士の連携も強く求められる。

働き盛りを襲うストレス、心の病気を克服し、働く人と会社の元気を支援することが沖縄の活性化、長寿県復活への道と考え、診療や産業医活動に従事している。