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人間学から見た「笑い」(2004年12月28日掲載)

金城 英 與(ひかり医院)

ユーモアは打ち出の小槌

悲愴感を包み込む

「笑う門には福来る」と言いますが、みなさまは今、笑える状況にありますか。もし、 笑えないぐらいつらい状況や、苦しい状況にある場合には、ぜひユーモアで笑い飛ばして みてください。

ユーモアとは単なる笑いではなく、つらい状況にあっても、そこから自らの精神力で立 ち上がろうとする時に、悲愴(ひそう)感を笑いで包み込んでしまうものだと思います。 これは、わたしたちの「人間学的心身医学」の立場から見たユーモアの考えであり、精神 的反発を伴った笑いといえます。では、それがどうすれば可能なのか。

例えば、ポーランドの小話を一つ。

「ワルシャワで一番景色のいい所はどこかね」

「そりゃ、文化科学宮殿さ。あそこのてっぺんに登ると、あの宮殿が見えなくなるから ね」文化科学宮殿とは、スターリンがワルシャワ市民に贈った、高さ二百三十メートルもの 壮大な建物で、ワルシャワ市のどこからでも見えるものですが、これが実に評判の悪いこ とで有名です。それはワルシャワ市民がスターリンにいつも見下ろされているようで、ポ ーランド人の強い反発をかっていたのです。ソ連のスターリン批判の痛烈なユーモアです。

これは「人間は変える事のできないいかなる状況にあっても、自分の心の態度を変える ことの自由を持つ」という人間学の基本的な原理。すなわち、現在の外側の問題も現状も 変えられなくとも、心の態度を変えることを可能ならしめるものがユーモアにはあるとい う事です。

この人間特有の心と、動物と共通の心とを十六の心の活動として分類したのが別表です。 詳しくは説明できませんが、ユーモアには創造、自由決断、即時対応性等の心の活動が含 まれているのです。こういう人間特有の心に働きかけて、身体と心を治療していくのが人 間学的心身医学のとらえ方です。

実際に、予後半年と言われた方が、毎回笑いに包まれて診察室を出て行く時に、予後が 一年に延び、一年半に延びていく。また、難治の神経痛で、特効薬はなし。しかし、笑い とユーモアの治療によって、なにかにつけて笑いが出てきた時にやっかいな痛みが和らぎ、 血液検査の結果も改善された。

また、身近な出来事でも、人がみんなの前で突然転んで失敗した時などに、照れ隠しに ニヤッと笑ったりする。つまり、思いがけなく転んだという、一瞬とはいえ人前で惨めな 思いをした時に、痛くて顔をしかめるのが自然ですが、その惨めな姿の自分を救わんとし て、その悲愴感を笑いで包み隠す。この「にもかかわらず笑う」のがユーモアの原型でし ょう。

さて、心を健康にする「打ち出の小槌(づち)」がユーモアには含まれており、その根源 は、人間はどんな逆境に置かれても、たとえ死の病に伏しても、自分の心の態度を決定す る自由を持っていて、「にもかかわらず笑う」事ができる存在だということです。

あなたも、この打ち出の小槌を使ってみませんか。