耳垢は、専門的には「じこう」と読みます。耳垢のでき方は、皮膚がいつも下から新 しい細胞ができてきて、表面に出てきた細胞からはがれていきます。鼓膜や外耳道上皮で も同じことが起きており、その上、鼓膜や外耳道上皮には移送能といってゆっくりと鼓膜 側から外耳道孔へと移動する機能があります。この移動の途中で外耳道の皮膚にある皮脂 腺と、汗腺の一種である耳垢腺(解剖学的には耳道腺)からの分泌物と外から入ってきた 塵埃(じんあい)が交ざり合い、上皮がはがれて耳垢になります。
耳垢には乾燥してポロポロしている乾性耳垢と、あめのように湿った軟らかい湿性耳垢 (または軟性耳垢)があり、いずれも主に遺伝的なもので病気ではありません。湿性耳垢 の出現率には人種により差があり、中国北部の人や韓国人では少なく4―7%ですが、モン ゴル人は12%程度、ミクロネシア人やメラネシア人では60―70%であり、白人では9 0%以上が湿性耳垢であると言われます。黒人に至っては、99・5%というデータもあ ります。また、年齢により多少の変化があり、湿性耳垢は老年期になると割合が減少する ようです。
日本人では、湿性耳垢の人は約16%といわれています。湿性耳垢の割合は日本の中で も地域差があり、その差で日本人の由来を分類し発表しています。ちなみに沖縄での湿性 耳垢の割合はやや多く、30―40%といわれており、このことからわたしたちの先祖は縄 文人であり、東北アジア由来の上古石器時代人であり、従来言われた東南アジア由来では ないとの意見もみられます。
さて耳垢は何のためにあるのでしょう。耳垢の機能は正確には分かっていませんが、一 般的に言われているのは、(1)外耳道の表面から剥離(はくり)した脱落物の清掃(2) 外耳道の表面の乾燥を防ぎ保護する働き(3)昆虫の侵入防御(物理的に外耳道への侵入 を阻止することと、耳垢の苦味、においにより防御すると言われています)(4)抗菌作用 (これは耳垢が酸性であり、耳垢にタンパク分解酵素や免疫タンパクが証明されたことに より、何らかの抗菌作用が期待できることが言われています)―などです。
耳垢は外耳道の状態が正常で、年齢による機能低下がなければ、前に述べたように移送 能により外耳道孔まで移動してきます。その後、食物をかむ時の顎関節の運動などで自然 に排せつされるのが普通です。ですから耳かきはそれほど必要ありませんが、湿性耳垢の 人や、外耳道に何らかの病変のある人、また老人では多量の耳垢が固まって外耳道をふさ いでしまうことがあります。自分自身では耳掃除をしているつもりでも、耳垢を奥へ押し 込んでいる場合もあります。この状態は耳垢栓塞(せんそく)と呼ばれ、難聴や耳閉塞(へ いそく)感、時には痛みを伴います。また、子どもの突然の耳痛で耳鼻科を受診したら、 耳垢がガチガチに固まっていて鼓膜の所見がとれず、診断や治療に苦慮することもしばし ばあります。
たかが耳垢だから、耳垢だけで恥ずかしいからといって二の足を踏むのではなく、数カ 月に一度は耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することをお勧めします。