脳の重量は約一・三キログラムしかありませんが、安静時は体で使われる酸素の20%、 エネルギー源であるブドウ糖の25%をぜいたくに使っている゛金食い虫゛の臓器です。 そのためにたくさんの血管が走り、片時も欠かさず血液が循環して、酸素やブドウ糖を供 給し老廃物を運び出しています。
これらの血管に問題が起こり、脳の一部、あるいは全体がうまく機能しなくなる病気を 脳血管障害と呼びます。発症の仕方が急激で、今まで元気だった人が突然倒れるように発 症することから脳卒中とも呼ばれます。
脳血管障害は長い間(一九五一―八一年)、日本人の死亡原因の第一位でした。死亡率が 減少した現在でも、死亡原因の三位を占める疾患で、生命を脅かす病気であることには変 わりはありません。また、発症すると、一瞬で患者さん本人と周囲の人の生活を根底から 変えてしまいます。
脳動静脈奇形など若年で発症する特殊な病気を除くと、脳血管障害の多くは中高年で発 症します。脳血管障害は、大きく閉塞(そく)性障害(血管が詰まって栄養を供給できず 脳が死んでしまう病気)と、出血性障害(血管が破れ、出血の勢いや血の塊の圧迫で脳が 壊される病気)に分けられます。脳梗塞(こうそく)は閉塞性脳血管障害に含まれ、出血 性疾患の中には、脳の深部の細い動脈が破れる脳内出血と、脳のシワの中を走る比較的太 い動脈に原因があって起こるくも膜下出血などが含まれます。
血管が詰まる、破れるというと全く反対の現象と感じられる方も多いと思いますが、発 症に至るまでの要因は共通です。この発症要因の一番大きなものは、動脈硬化などの血管 の劣化です。わたしはよく、古くなった水道管に例えて話をします。古い水道管はボロボ ロのさびで内腔(ないくう)が狭くなり、水道管自体の強度は極端に低下しており、時に 詰まって水が出なくなり、時に破たんして漏水を起こします。動脈硬化で傷んだ血管が脳 梗塞、脳出血を起こす事とそっくりです。人間の血管と水道管の違いは、取り換えがきか ないことです。その分、人間の血管の劣化の方が不利で、「古い水道管」になる手前で動脈 硬化などから守っていくことが重要です。
それでは、その劣化の原因となるのは何でしょう。
最も重要な因子として考えられているのは血圧です。高血圧は動脈硬化を進行させると ともに、最終的に傷んだ血管を破たんさせる発症の直接の力にもなります。そのほかに、 糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、さらには喫煙、適量を超える飲酒などの生活習慣も血管 劣化の原因となります。これらは、まめな測定や採血などの検査でしか発見することがで きません。さらに、これ自体は痛くもかゆくもないため、検診等で指摘されても放置した ままの方も多いようです。しかし、長期の警告期間の後、発症する時は一瞬であり、その 後の人生を全く変えてしまいます。その面からも予防が特に重要です。何でも相談できる 先生を早く見つけ、十分なコントロールを始めることで脳卒中を予防しましょう。