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麻酔の日(2004年10月12日掲載)

垣花 学(琉大付属病 院)

市民公開セミナー開催

痛みの相談コーナーも

皆さんは、十月十三日が「麻酔の日」であるということをご存じでしょうか? 今を さかのぼることちょうど二百年前、華岡青洲が世界で初めて全身麻酔下に乳がん摘出手術 を成功させたのが一八〇四年十月十三日でした。青洲は、朝鮮アサガオを主とする六種類 の薬草から「通仙散」を作り上げ、それを用いた動物実験を重ねました。さらに、自分の 母親や妻をもこの実験に使い、この偉業を成功させたのでした(有吉佐和子著「華岡青洲 の妻」)。これは、広く世界で知られているハーバード大学におけるモートン医師のエーテ ル麻酔の公開実験の約四十年も前のことでした。そこで、日本麻酔科学会はこの偉業をた たえて十月十三日を「麻酔の日」としたのです。

明治以降、ドイツ医学を妄信していた日本には、第二次世界大戦から急速に進歩するア メリカ医学の情報が入らず、大きな後れを取ってしまいました。特に、アメリカの麻酔科 学の進歩は飛躍的であり、この分野での遅れは非常に大きいものでした。

第二次世界大戦後の一九五〇年に、ニューヨークのサクラッド麻酔科医が医学使節団と して日本を訪れました。彼は、日本の外科医に対し、アメリカでは心臓手術や肺手術が安 全に行われているという内容の講義を行い、大きな驚きを与えました。その時外科の指導 者たちは、アメリカの医療水準に追いつくためには、日本でも早急に麻酔科をつくらなけ ればならないと考えました。

以来、アメリカの水準に追いつくために多くの日本人医師が渡米し、アメリカの麻酔科 学を勉強しました。そして昭和二十七年に東大に最初の麻酔学講座がつくられました。現 在では多くの麻酔科の専門医が育ち、日本でもアメリカに匹敵するほどの質の良い安全な 麻酔医療がなされています。

さて、十月十三日を「麻酔の日」とした日本麻酔科学会は、「麻酔」というものを一般市 民に知ってもらうために、十月の第二週に東京で大々的に市民公開講座を行っています。 この活動は全国に広まっており、ここ沖縄においても琉球大学医学部付属病院麻酔科が中 心となって、琉大付属病院の外来ロビーで二〇〇一年度から毎年「市民公開セミナー」を 開催しています。そこでは、麻酔の歴史、麻酔科医の役割、麻酔の安全性、ペインクリニ ックならびに麻酔の実際(ビデオやシミュレーターを用いた)を紹介し、さらに市民相談 コーナーも設け、参加された方々からの質問や相談に応じています。

この市民公開セミナーは麻酔科医の手作りであり、「わたしたちは、麻酔というものを正 しく理解し、安心して手術が受けられる環境づくりに邁(まい)進します」をスローガン に、一般市民の方々に麻酔科学の飛躍的な進歩とそれに伴う安全性の確立、ならびに麻酔 科医の役割を紹介しています。このような活動を通して、一般市民の方々はもちろん、必 要があれば他の医療団体や政府にも働きかけ、一人でも多くの麻酔科医が増えて、安全な 手術ができるような社会環境をつくり上げていくつもりです。

これから手術を受けるけれど、麻酔に関して不安あるいは疑問のある方、痛み(どのよ うな痛みでも結構です)でお困りの方は、相談に訪れてみてはいかがでしょうか? 詳し くは琉大医学部麻酔科外来へお問い合わせください。