沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2004年掲載分 > 甲状腺のはなし

甲状腺のはなし(2004年10月5日掲載)

金城 清光(沖 縄回生クリニック)

検査技術が画期的進歩

超音波、細胞診で腫瘍診断

甲状腺は頚部(けいぶ)のほぼ真ん中にあって、生命維持に欠かせないホルモンを分 泌する小さな臓器です。今では、人間ドックや検診の対象となり、甲状腺の病気は糖尿病 に匹敵するほど多いことが分かってきました。

つい二十五年前まで、甲状腺の病気の診断は容易なものではありませんでしたが、いく つかの診断技術の画期的進歩があって、今日では多くの施設で行えるようになっています。 今回はそのうちの三点について分かりやすく記してみます。

まず一つは、甲状腺ホルモンの測定法の進歩です。その一例を挙げると、身体の代謝を 支配しているフリートリヨードサイロキシン(フリーT3)というホルモンの正常中間値 は、血清一ミリリットル中に三ピコグラムぐらいです。一ピコグラムは実に一兆分の一グ ラムで、三ピコグラムを数値表示にすると0・0000000003グラムになります。 このように極めて少ない量でも、精密に測れるようになりました。(それにしても、こんな に微量のホルモンの増減で全身に不具合が生じるのですから、驚きですね)。

今日では、甲状腺ホルモンや自己抗体などの特殊検査も、かかりつけ医に相談すれば、 検査センターを介して数日で正確な結果が得られるようになりました。約十年前から、甲 状腺診療を専門とする施設では「お待たせ。ホルモン値はかなり軽減しているので、お薬 は四錠から二錠にしましょう」と言うように、小一時間で甲状腺ホルモンや高感度TSH (甲状腺刺激ホルモン)の結果が判明し、治療方針が決定できる至急検査や診療前検査を 行う所が増えました。離島や遠隔地の方も日帰り受診が可能となり、大変便利になってい ます。

二つ目は、超音波診断です。やまびこをご存じですか。よく聞いてみると、音色の違っ た音が重なり合うように聞こえてきます。超音波の原理も似たようなもので、装置から発 信された超音波が、生体内の音響インピーダンス(脂肪と筋肉では音のはね返り方が違う と理解してください)の違いによって反射ないし透過され、受信された信号がコンピュー タ処理されて画像に構成されます。

触診に頼っていた腫瘍(しゅよう)(がんを含めたしこりの総称)の診断が、まるでスナ ップ写真を見るかのごとく診断できるようになったのですから、画期的進歩と言わざるを 得ません。

三つ目は、穿刺(せんし)吸引細胞診にて腫瘍の質的(悪性か否か)診断が飛躍的に向 上したことです。

腫瘍の中のがんが疑われる部位を超音波で確認しながら細い針で刺し、そこから採取し た細胞群を顕微鏡下で検査するのです。診断医がいくら熟練していても、数パーセントは がんを良性としたり、全く逆であったりすることは避けられませんが、現在では多くの施 設で約85%は正しく診断できるようになっています。

良性という結果だったのに、どうしてもがんが疑われるということであれば、疑わしい 部位を再度穿刺してもらうとよいでしょう。二回、三回と行うことで、より正確な診断が 下せるようになるからです。