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ホスピスボランティア(2004年9月21日掲載)

宮城航一 (宮里病院)

外の風を運ぶ存在

市民感覚、一般病院にも

留学先の研究室に初めて出掛けた時は、随分緊張していた。受付で応接してくれた女 性は白髪で上品な方であった。米国では、入院と外来の受付が全く違う場所にあるので、 病棟ビルの受付は落ち着いた雰囲気がある。三人いた受付は、みな初老期の女性で、研究 室に連絡を取ってくれ、その道順を丁寧に教えてくれた。不安な気持ちで入院してくる患 者も、このような応対に心慰められるに違いない。日本だと若い美人の女性を受付に配置 するところだろう。病院の売店にも同じような年齢の女性が働いていて、街に出掛けるよ り、彼女たちがそろえた小物はすべて気の利いた物だった。彼女たちはボランティアだっ たと後で知った。

欧米では、医療福祉施設において、ボランティアは欠くことのできない存在である。日 本においてもボランティアは定着しつつあるが、まだまだ医療側はボランティアの受け入 れに慎重な態度を取っている。これは、ボランティアの効用をよく知らないか、ボランテ ィア導入の利点と欠点を公平に判断できないからではないだろうか。

例外的に、ホスピスではボランティア活動は活発である。ホスピスは一般病院のように 医師、看護師、患者だけで構成されてはいない。家族は自由に患者の傍らにいて、よくソ ーシャルワーカーやチャプレン(病院付牧師)も出入りする。ホスピスは、治療の場では なく、終末を豊かに過ごすための「生活の場」である。ホスピスは一つの共同体、小さな 社会を形成しているといえる。ボランティアは、この共同体になくてはならない存在だと いってよい。ずっと入院している患者にとってボランティアは、外の風を運んでくれるさ わやかな存在なのだ(そうありたい)。

ボランティアをするためには、通常、ボランティア講座で基礎的なトレーニングを受け、 病院での面接を受けてボランティア活動に入る。活動内容はいろいろだが、患者に接する 活動から、患者には直接接触しないけれど、間接的に患者のアメニティー(快適環境)に 貢献する活動もある。後者は例えば、ホスピス病棟に設けられた庭園の管理とか、郵便物 を投かんする役割などである。美容師、演奏家など特殊な技能を持つボランティアもいれ ば、話し相手、食事の介助、部屋の掃除、手紙の代書、ひげそり、花生け、季節行事のプ ランニングと実行、喫茶室の運用など、必ずしも特殊技能がなくてもできるボランティア もある。ボランティアは患者に奉仕することで、ほかの人に役立っている喜びを味わい、 生の意味を深く知り、自身のQOL(生活の質)が豊かになっているのを感じる。  ホスピスは限りなく家庭的、家族的であるように努力している。ボランティアは、医療 従事者では気が付かないことを気付いて指摘してくれる貴重な存在である。昨今の病院は、 市民感覚を導入しなければ、流れに取り残される時代である。ボランティアから提案され る忌憚(きたん)のない意見は、病院にとって大変貴重なものである。ホスピス精神は、 一般病院にも必要なことだと考える。
(ホスピスを考える会会長)