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特発性間質性肺炎(2004年9月14日掲載)

當銘 正彦(県 立那覇病院)

初期は自覚症状なし

喫煙も発症の危険因子

間質性肺炎という概念をご存じでしょうか。肺は、解剖学的に実質と間質に分けるこ とができますが、一般的にいわれる肺炎は、肺実質の肺炎であり、原因は細菌感染が中心 です。一方、間質性肺炎は肺の支持組織である肺胞基底膜や毛細血管に起こる炎症性の疾 患で、その原因が特定できるグループ(薬の副作用、膠原(こうげん)病、カビや塵埃(じ んあい)等の吸入、放射線障害など)と、特定できないグループの二つに大別でき、後者 を特発性間質性肺炎と称し、こちらの方が多数を占めます。ちょうど、原因の特定できる 高血圧を二次性高血圧と呼び、大多数を占める原因不明の高血圧を本態性高血圧と称する 関係とよく似ています。

さて本題の特発性間質性肺炎ですが、これも単一疾患ではなく、発生形態や病理学的な 特徴により現在では七つほどの病名に小分類されますが、最近では治療に対する反応の良 否により、大きく二つのカテゴリーに分類することが大事であると考えるようになりまし た。すなわち、ステロイドホルモンに代表される免疫療法に反応が悪い特発性肺線維症(I PF)と、治療への反応が期待できるその他の疾患をまとめて非IPF群とする分類です。 残念ながら、われわれが日常臨床で最も頻繁に遭遇するのは治療への反応が悪いIPFの 方です。

諸所からの報告によると、IPFの有病率は、人口十万人に対し六―十五人程度とされて いますが、七十五歳以上では、十万人に対し百七十五人を超える可能性が指摘され、われ われの日常診療での実感とも一致しています。

IPFの臨床像は、慢性に経過する、治療に反応しない初老期以降の疾患として一般的 には認識されていますが、胸部X線上で間質性陰影が出現し出す病の初期には全く自覚症 状がなく、労作時の息切れを感じる中等症までは放置されているのがほとんどです。とこ ろが、中等症から重症にかけては、肺の線維化による硬化性変化に伴い、頑固なせきと進 行性の息切れが顕著となり、感冒などを契機に急速に重篤な呼吸不全を併発し、時には免 疫療法が奏功する場合もありますが、大方はあらゆる治療に抵抗し、死の転帰をとる極め て予後不良の疾患です。

ところで、原因不明といわれるIPFですが、患者の疫学調査を行うとばい煙や紛じん 等、有害因子の吸入機会の多いことが判明しています。とりわけ、IPF患者の約半数は 喫煙者が占めており、今では、喫煙はIPF発症の重要な危険因子の一つとして認識され ています。また、IPFには二割前後の高い頻度でがんの合併がみられることでも有名で すが、喫煙者のIPF患者には、肺がんの合併が40%近くもみられるとの報告もありま す。人類が回避可能な疾病の予防対策の第一位に禁煙がランクされるのは有名ですが、確 立された治療法がなく、予後不良の疾患として国の難病にも指定されるIPFにおいても、 喫煙の果たす悪弊の事実は、厳しく指弾されなければなりません。禁煙は、健康への大き な第一歩です!