先日、妻が職場の健康診断を受けた後、「わたしは動脈硬化がないみたい」ととても喜 んでいました。動脈硬化を表す数値が一〇〇〇以下で、沖縄の人には珍しいとの事でした。 この数値を聞いて、日ごろわたしたちが動脈硬化の参考値としているある検査をすぐに連 想しました。動脈硬化は狭心症、心筋梗塞(こうそく)等の虚血性心臓病や、脳梗塞等の 脳血管障害を引き起こす怖い病態です。しかし動脈硬化が進行し、病気が引き起こされる までは何の症状も出ません。ある時突然起こり、わたしたちの生命を脅かします。
今回わたしたちは、妻が行った上肢、下肢の血圧を同時に測定し脈波伝播(でんぱ)速 度(PWV)を測定する検査と、頚(けい)動脈の内膜中膜複合体(IMT)を測定する 検査を用いて、県民の動脈硬化の進行程度を分析しました。この検査は簡便で人体に侵襲 を与えない検査です。
沖縄はかつて日本一の長寿県でしたが、二〇〇〇年度の平均寿命では男性が二十六位に 転落。その原因の一つに食生活の変化に伴う肥満が考えられています。沖縄県の肥満者割 合は極端に高い数値を示しています。動脈硬化の危険因子として高血圧、糖尿病、高脂血 症等が挙げられますが、肥満はいずれも悪化させるものであり動脈硬化に大きく影響を与 えます。
沖縄の脂肪摂取量は昭和四十七年には一般成人で適当とされる20―25%を超え2 6・5%に達し、現在は全国平均に比べ4・7%高い31%となっており、脂肪摂取量は 全国の二十―三十年先を進んでいるという分析結果が出ています。現在の沖縄は動脈硬化先 進県となっているのです。今回行った調査は、当院の患者さんに行った検査(PWV千八 百十九人、IMT九千百六十三人)を基に作成したためバイアスがかかっていますが、沖 縄の傾向を反映していると思われます。
図1はPWVの年齢別変化、図2はIMTの年齢別変化を表しています。図1では、男 性の動脈硬化は初期から全国平均を上回り、五十歳前後にさらに増加しています。図の+ 2sdのラインは、標準偏差の二倍のラインであり、これを超えると大きく平均を超えて 動脈硬化が進行していると考えてください。女性は初期から+2sdのラインを超え、そ のまま+2sdのライン上を推移しています。PWV値がいくつを超えると虚血性心臓病、 脳血管障害が増加するかは現在はっきりと分かっていないため、今後の研究課題としたい と考えております。いずれにしても全国平均を大きく上回り経過しています。
図2のIMTの正常値は8以下であるため、男性では六十歳前後で、女性は七十歳前後 で正常値を超えていることを表しています。IMT値の増加は虚血性心臓病、脳血管障害 を増加させるため注意が必要です。今回の調査から、沖縄の動脈硬化は進行していること がうかがわれます。この現状をさらに詳しく分析し、医療に生かしていきたいと考えてい ます。心臓病は未然に防ぐことがとても大切です。わたしたちには沖縄の動脈硬化を治療 するだけではなく、予防する義務があります。全国の二十―三十年先を行っている沖縄がこ の状況を克服することは、今後の日本の良いお手本となるはずです。