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背骨の老化(2004年8月24日掲載)

屋良 哲也(那覇市 立病院)

骨粗しょう症と深いかかわり

食事や運動で体づくりを

整形外科のイメージといえばやはりギプス、包帯、松葉づえといったところでしょう か。しかし、実際は「けが」よりも原因の分からない痛みを気にして来院される方が結構 多いのです。中でも腰の痛みについて悩んでいる方は少なくありません。これらには、突 然発症するいわゆるギックリ腰から高齢者に多い慢性腰痛までさまざまです。ここでは高 齢者における腰痛について、背骨の老化という視点から述べます。

脊椎(せきつい)動物の中でも人間の背骨は、二足歩行のため過酷な負担を強いられて います。背骨は加齢に伴いさまざまな変形を生じます。骨のつなぎ目である関節は軟骨が 摩耗し、安定性が損なわれます。また、椎間板(ついかんばん)は周囲がひび割れて中心 部の髄核が突出し、いわゆる椎間板ヘルニアを生じたりします。やがて背骨は関節でずれ てゆがみを生じ、出っ張りが目立つようになります。さらに背骨のゆがみは脚にも影響を 及ぼします。すなわち骨盤が傾き、これを代償するために股(こ)関節とひざ関節は曲が り伸びにくくなります。このように体の「かなめ」である背骨の不具合は体全体のバラン スを崩し、痛みをもたらすこともあるのです。

背骨の老化は骨粗しょう症とも深くかかわります。骨粗しょう症はご存じのように骨が もろくなる病気で、骨の密度が加齢とともに減少することによって生じます。骨粗しょう 症があると、転倒などによって骨折が生じやすくなりますが、背骨は時には体の重みに耐 えかねて自然につぶれてしまうこともあります。まさか痛みの原因が骨折とはお考えにな らないかもしれませんが、珍しくありません。

さて、ここでは老化を悲劇的な運命としてお話する意図は全くありません。確かに背骨 の老化は今のところ克服できない現象ですが、大事なポイントは「老化=病気」ではない ということです。老化した背骨が障害を伴った時、病気として治療しますが、障害の程度 も少しずつ異なり、老化現象と病気の間に明確な境界線を引くことはできません。痛みに 対しては薬や装具などによる治療を行いますが、大部分の方は一時的な症状であり、治る までにそう長くはかかりません。治療の目的は痛みを和らげることであって、変形を元に 戻すことではないのです。言うまでもありませんが、病院での治療だけでなく、日ごろか ら食生活に気を付けながら、運動や体操によって力強くてしなやかな体づくりを心掛ける ことが大切です。きっと、老化を感じさせない活力ある生活が送れるはずです。

最後に一言。だれしも老化は仕方ないと分かっていても、実際にレントゲンで自分のゆ がんだ背骨を見るのはあまり気持ちのいいものではないでしょう。しかし、老化だけでは 片付けられない原因で腰が痛んだり、脚がしびれたりすることがあるのも事実です。この ような病気を診断して適切な治療をすることが専門医の役割と考えます。お困りの際は悩 まず受診されることをお勧めします。