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肺がんと人生計画(2004年8月17日掲載)

福本 泰三(浦 添総合病院呼吸器センター)

病期に合わせ治療計画

セカンドオピニオンも参考に

「○○さん、残念ながら検査の結果は右肺の肺がんです。他の臓器への転移やリンパ節 転移もなく、がんが肺の中にとどまっているようです。○○さんのがんは非小細胞肺がんで、 臨床病期は1期と推されます。がんを完全に治す最善の治療法として手術をお勧めします。 手術では右肺上葉切除術とリンパ節郭清を行います。○○さんの場合、残った肺の働きで大 好きなゴルフは続けられるでしょう。生命への危険率は2%弱くらいです。一時、われわ れに命を預けてください。ほとんどの患者さんが手術後は十日程度で退院されます」

不幸にも○○さんと呼ばれることになってしまった皆さんは、がんの宣告を受けてずいぶ ん悩まれ、今後の人生の岐路に立ち、受けるべき治療法を決断されることになります。

実際、肺がんと診断された時点で既に進行しており、外科手術を受けられない方が七割 近くおられます。

肺がんは病状の進行度を1(1)期から4(4)期の病期で表します。臨床病期は手術 前のがんの進行度のことで、がんの治療計画を立てる上で重要です。

臨床病期1期の肺がんと、大半を占める臨床病期2期の肺がんに対する治療方法の中で 最も有力な治療法は手術療法であり、手術だけでも完治する期待が持てます。体力的な問 題がなければ、急いで手術を受けられることをお勧めします。

臨床病期4期では、遠隔臓器にまでがんが広がった進行状態で手術を行うのは特殊な場 合であり、外科医の役割は限定されます。臨床病期3期(がんが肺の表面を越えて周囲に まで広がった場合や、がん病巣よりかなり遠くのリンパ節にがんが転移した場合など)の 肺がん患者さんに対する治療計画の決定は慎重に行う必要があります。3期の肺がん患者 さんでも、抗がん剤による化学療法や、場合によっては放射線療法をうまく組み合わせて 治療し、がんの勢いを抑え、後に外科的に根治手術が可能になることがあります。

ここでの外科医の重要な役割は、高い精度のリンパ節郭清技術、隣接臓器合併切除の技 術を駆使することです。手術の難易度は高く、術後の合併症による死亡率も明らかに高く なります。患者さんにとっては数多くの治療を長期間にわたり受けることになりますので、 相応の体力と強い気力がないと乗り越えられない壁となります。限られた方にのみ、お勧 めできる治療法です。それぞれの患者さんの今後の人生計画を第一に考慮し、どのタイミ ングでどのような抗がん剤の治療を行い、どのような効果が出た後に根治手術を受けるの が良いか決定しております。例えば、数カ月の抗がん剤治療の間にいろいろな人生の整理 をしておいて、後に根治手術が期待できればと望む方には、機を逸しないように手術を行 います。

それぞれの肺がん患者さんにそれぞれの人生があり、生活があり、今後の計画がありま す。手術が良いのか、化学療法が良いのか、その他の治療が良いのか、セカンドオピニオ ンも十分参考にしてください。

著者は一肺外科医としてテーラーメードのがん治療法を提供できれば幸いです。