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先天異常の誤解(2004年8月3日掲載)

當間 隆也(県 立那覇病院)

誰もが病気の保因者

社会全体で正しい理解を

「先天異常」についてはさまざまな誤解や偏見があり、種々の混乱が生じています。「先 天異常なんてまれだし、身内にもいないから自分とは関係ない」「先天異常は遺伝だから親 に原因がある」などはよく言われることですが、代表的な誤解です。今日は、先天異常は まれではないこと、どのカップルにも起きる可能性があること、先天異常は社会全体で考 えていかなければならないものであることなどをお話したいと思います。

「先天異常」とは、生まれる前にその要因があって、生まれた時には既にその異常が存 在する体の形や機能の異常をいいます。先天性心疾患や口唇口蓋裂(こうしんこうがいれ つ)、ダウン症候群などのほかにも、先天代謝異常、神経・筋疾患、内分泌疾患、血液疾患、 免疫異常などさまざまな疾患が含まれます。

どれくらいの割合で先天異常の子どもが生まれていると思いますか? 実は、二十人の 赤ちゃんに一人の割合で生まれるといわれています。沖縄県では、出生数が年間約一万六 千人ですから、先天異常を持った赤ちゃんは年間約八百人、毎日二人ほど生まれている計 算になります。先天異常はまれではないのです。

では先天異常の原因は何でしょう。先天性のものだから、「遺伝」が原因だと一般的に考 えられていますが、これも誤解です。両親とも何の異常もないのに子どもに異常が現れる 例はたくさんあります。しかし、これは「遺伝」のせいではありません。多くは、ヒトが 生物であるためには避けることのできない突然変異という現象によって起きています。決 して特別な親から生まれるわけではないのです。親にも、もちろん生まれた子どもにも何 も罪はないのです。このような誤解が多くの偏見を生み、患者さんやその家族の悩みを深 いものにしています。

もちろん、先天異常の原因の一部には、遺伝的要因が関係します。その一つに劣性遺伝 病があります。劣性遺伝病は、健康な両親のそれぞれから傷ついた遺伝子を一つずつもら い、二つそろうことで発症します。両親は傷ついた遺伝子を一つしか持っていないので病 気は発症せず健康なわけです。この状態を保因者といいます。わたしたちは皆、先天異常 や何らかの病気の原因となる傷ついた遺伝子を五、六個持っています。つまり、みんな何 らかの病気の保因者なのです。劣性遺伝病を持つ子どもが生まれて初めて、両親はその病 気の保因者であると分かるのです。傷ついた遺伝子を持たない完ぺきな人はいません。わ たしたちは皆、ある日突然先天異常を持った子どもの親になる可能性があるのです。

先天異常が、突然変異というヒトが生物であるために避けることができない現症によっ て起きる以上、出生前診断の技術がどんなに進歩しようとも、先天異常がなくなることは ありません。そして誰でも先天異常を持った子どもの親、または親族になる可能性があり ます。だからこそ、先天異常はあなた自身の問題でもあるのです。みんなで、社会全体で 先天異常を正しく理解し考えていく必要があります。そして、どんなに重い障害のある先 天異常の子どもであってもしっかりと受け入れ、偏見がなく、その子も家族も当たり前の 生活ができるような社会環境をつくる必要があると考えます。