前立腺がんは、新聞や雑誌、テレビにも頻繁に取り上げられ、最近は、天皇陛下の前 立腺がん治療で、早期発見が可能なPSA(血清前立腺特異抗原)検査の重要性や、前立 腺がんの治療法が一般の方にもよく知られるようになってきました。
前立腺がんは、アメリカの男性のがんの中で罹患(りかん)率一位で、日本においては、 胃がん、肺がん、結腸がん、肝臓がん、直腸がんに次いで六番目に多いがんです。二〇一 五年には、一九九五年の二・八倍の罹患が予想されており、がんの中で最高の増加率です。 その病因として、食事での脂肪(主に動物性脂肪)摂取量の増加があり、食生活の欧米化 がいわれています。沖縄では、主に脂肪の多い食生活から生活習慣病が増えていますが、 同様に前立腺がんも増えているのです。
早期発見の目的で集団検診や人間ドックでPSA検査がされるようになり、PSAスク リーニングによる前立腺がん検出率は1・3%。胃がん、子宮がんの集団検診の約0・1% の検出率に比べて、驚くべき高率との報告がなされています。当院ドックや外来で前立腺 がんを疑った場合、確定診断のために前立腺針生検を行いますが、当科の二〇〇三年の成 績は、生検を受けた七十五人中二十三人(31・5%)に前立腺がんが見つかり、その5 2%は限局がん(早期)で、四年前の25%と比較すると、転移や周囲への浸潤のない早 期に見つかるようになってきました。
潜在がん(ラテントがん)は、臨床的にがんの兆候が見られず、剖検によって初めて発 見されるがんのことですが、わが国の剖検例の約30%に前立腺がんが発見されます。ち なみに潜在がんの割合は、五十歳代で34%、八十歳代で54%の報告です。つまり、検 診やドックでは1・3%の割合で見つかる前立腺がんですが、剖検時の30―50%の検出 率には、はるかに及ばないのです。このことから、臨床的に意味のないがん、つまり進行 がんにならないがんの存在が討論されるようになりました。
臨床的に問題となる、進行するであろう前立腺がんを見極めるには、腫瘍(しゅよう) の体積が〇・五ミリリットル(直径約一センチ)以上であるとか、PSAの連続測定での 上昇率で判断するなど多くの報告が発表され、研究されているところです。ほかのがんと 比べ進行が遅く、初めのがんの発生からがん死に至るまで四十五年かかるのでは、との研 究もあります。このような考えから、ヨーロッパでは、前立腺がんの組織悪性度が悪くな いもの、腫瘍量の少ないものに対して、病期(ステージ)が進行してから治療開始すると いう「待機療法」も早期前立腺がん治療の選択肢の一つとして選ばれるようになっていま す。決して「無治療放置」ではありません。
前立腺がんの治療には、手術療法、放射線療法、ホルモン療法が主な治療法です。しか し、病期、前立腺がん細胞の悪性度などによっても、治療法は変わります。当たり前のこ とですが、前立腺がんも早期発見は治療成績が良く、何よりもその病期に合った有効で適 切な治療を受けることが重要なのです。