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PDファースト(2004年7月6日掲載)

宮里 朝矩(同仁病院)

血液透析への橋渡し役

高齢者への透析導入にも適応

腎不全治療には、血液透析(HD)以外に連続携行式腹膜透析(CAPD)があるの をご存じでしょうか。

CAPDは、保険適応になって二十年以上の歴史を持つ透析方法です。世界的にも透析 患者の15%に当たる約十三万人がCAPDによる透析を行っていますが、日本ではおよ そ5%の普及率で、数年前から停滞しております。原因としては、わが国ではHD施設が 普及していることなどが考えられます。

CAPDを導入しない原因はほかにもあります。CAPDを行う場合は腹腔(ふっこう) 内へ長期的にカテーテルを留置し、カテーテルの皮膚出口部および皮下埋没部(トンネル 部)などの感染症予防のための煩雑な自己管理が必要となりますが、それを指導する実施 経験のある医師やスタッフが少ないことなども考えられます。さらに発症頻度は低いもの の、被嚢(のう)性腹膜硬化症(EPS)などの難治性腹膜炎の発症があるためです。し かし、CAPD技術が改良され、生体適合性の高い透析液の登場で被嚢性腹膜硬化症を予 防する可能性が高くなったため、今後発症頻度は低下してくることが予想されます。

CAPD導入の適応を考えてみましょう。以前は、血液透析のような時間的拘束を受け ずに社会復帰を目指す社会人がCAPDを選択する積極的適応と、心血管合併症やブラッ ドアクセス不良でHDを施行できない人々に対してCAPDを選択する消極的適応の二種 類がありました。しかし、最近では前述の適応にこだわらず、CAPDの長所を生かすた めに、むしろCAPDの延長上にHDがあるととらえるようになり、CAPDは末期腎不 全から本当の透析療法であるHDへの橋渡し役と位置付けられ、移行期療法、いわゆるP Dファーストと呼ばれるようになってきました。すなわちPDファーストとは、透析導入 の始めにCAPDを選択し、CAPDの長所を十分生かした後にHDに移行するという治 療方法なのです。

腎不全保存期患者(透析導入直前患者)にHDを導入すると、早期に残存腎機能が失わ れて無尿となり、その後はどうしてもHDに頼らざるをえなくなってしまいます。

一方、CAPDは、残存腎機能と自尿を保ちつつ、安定した体内循環動態を保持できる という長所が挙げられています。しかし、生体の腹膜を介して老廃物除去を行うことから、 腹膜劣化や、HDと比して透析不足に陥ることも少なくありません。そのため、CAPD とHD両者の長所を生かす併用療法が最近では行われるようになってきました。

血液透析より穏やかな透析で時間的拘束が少ないCAPDは、HDへの橋渡し役の移行 期療法だけでなく、循環器系に負担が少ないということで、高齢者への透析導入にも適応 と考えられるようになってきました。将来は高齢者透析患者が増加することが予想され、 今後は透析治療におけるCAPD治療の役割が増してくるものと考えられます。