毎年、日本のどこかで子どもの麻酔の全国的な学会が開かれる。全国の子ども病院(小 児病院)や大学病院などで小児麻酔を行っている医師がその中心となる。これを日本小児 麻酔学会と称し、昨年が福岡こども病院、今年は三重大学が主管し十回目の大会になる。 いわばまだ十歳の若い学会である。
年々発展している麻酔方法、外国からの医師を招いてのシンポジウムなど、若い医師に とっても知識を得る絶好の機会である。毎年学会のスタイルは違っていても、底流は「い かに安全な子どもの麻酔を行うか」というのに集約される。麻酔を専門としている麻酔科 医でも「子どもの麻酔は手がかかるし難しい」とよく言う。子ども(小児)の麻酔と大人 とでは何が違うのだろうか?
子ども自身、なぜ手術をするのか分からずに不安で泣き叫んでいる場面を想像してみよ う。子どもが手術の目的を理解するまで気長に待つのだろうか? それとも周りのみんな で押さえ込んで麻酔を始めるのだろうか? 押さえ込まれて麻酔を受けた子どもは、トラ ウマを長い間持ち続けるだろう。このように、大人とは異なった配慮はお分かりいただけ ると思う。
「子どもは大人の単なるミニチュアではない」とよく言われるが、小児麻酔でも全く同 じことが言える。小児麻酔は、新生児からおよそ十三歳までが対象だが、これらの子ども たちは発達段階の途上にある。全身麻酔を行うには、肺から吸収される麻酔ガスを用いる 吸入麻酔や、点滴に麻酔薬を入れる静脈麻酔が主要経路となる。呼吸と循環(主に心臓の 働き)が大きくかかわってくる。
小児麻酔の難しさは、子どもの呼吸、循環の予備力が小さいことにある。端的に言うと、 麻酔をかけるのに多量の麻酔薬を必要とするのに、呼吸や循環に影響を及ぼす゛効きす ぎ゛が起こりやすくなる。小さければ小さいほど、呼吸、循環、肝・腎、脳神経、精神発 達の不完成度が高く、未熟性が大きいことになる。小児麻酔は、子どもの年齢による背景 を熟知すると同時に、精神的な配慮と子どもに対して温かい心を必要とする。
「安全な麻酔を」との基本姿勢は、私が三十数年前に国立小児病院(現国立生育医療セ ンター)で小児麻酔を始めたころと変わっていないが、その安全性は飛躍的に増している。 何よりも安全な麻酔薬の開発、麻酔機器の工夫、モニターの発達がその安全性の向上に大 きく寄与している。
現在では新生児でも複雑な心臓の手術を行うことが可能である。優秀な心臓外科医が必 須なのは当然だが、周りには人工心肺係、看護師、麻酔科医などが縁の下で支えている。
二〇〇六年に県民待望のこども病院(周産期医療センター)が沖縄にも実現する。これ は多くの人々の絶大な努力の結晶だと思う。安全で高度の医療を目指すには、そこに従事 する医師や看護師、コメディカルの放射線技師などの充実が最低限必要となる。沖縄の子 どもの未来のため、素晴らしい病院になるよう希望し、貢献したいと思っている。