患者さんが病院に来院されると、適切な治療のために正確な診断が必要になります。
例えば、乳房にしこりがある場合、細い針を刺して吸引、あるいはしこりの一部を切り 取り、それを顕微鏡用のガラス標本にして観察すると、そのしこりが何であるのかがより 正確に分かります。
このような診断が「病理診断」です。この診断を専門とする医師が病理医で、内科・外 科・その他全科の病気をみるため、医師となった後に五年から十年の経験を要しています。
病理診断では、次のようなことが行われています。
まず細胞診断です。
例えば肺がんでは、痰(たん)にがん細胞が混じって出てくることがあります。そこで、 痰を実際に調べて、がん細胞があるのかどうかをみるのが細胞診断です。
また、子宮がん検診を受けられた方もおられると思いますが、その時、子宮の一部から 細胞をこすりとって、がん化しているかどうかをみます。これも細胞診断です。
次に組織診断があります。
例えば胃カメラで胃を調べる時、胃の粘膜の一部を三ミリ程度つまみとって調べる方法 があります。これは、細胞だけをみるのとは違い、細胞が形づくる組織構造もみることが できますので、情報が多く、より確実な診断方法といえます。
このほか、診断のために病変の「一部」を取ったもの、あるいは手術で病変の「全部」 を切除したものなど、患者さんの体から切り取ったものは、すべて病理診断がなされ、ど んな病変なのかが確認されています。これが組織診断です。
これらは、病気の診断の決定、治療方針の決定、手術後の対処方針の決定などに役立っ ています。
また、病理解剖診断があります。
不幸にして病死された患者さんのご遺体を、ご遺族の承諾の下に解剖させていただくの が病理解剖です。それによって、どれぐらい病気が進行していたのか、治療は適切であっ たのか、死因は何か、どうすればもっと長生きしていただけたのか、といったことが判断 されます。こうして医療の自己検証が行われ、今後に生かされていきます。
患者さんやご遺族の貴重な意思が真に生かされるよう、解剖結果は全国レベルで集め、 蓄積され、医学・医療の進歩に役立たせていただいています。その際、患者さん個人が特 定できないよう、プライバシーの保護には細心の注意が払われています。
病理診断はみなさまにはなじみの薄いものかと思いますが、患者さんの病気をより詳細 に把握するために、このような診断が行われています。