「心の苦しみ」はがんのようなもの、あってはならないもの、できるだけ早く切って 捨てるべきもの、と思ってはいませんか。それは大きな間違いです。「心の苦しみ」は必要 なものです。心が成長、ジャンプするためになくてはならないものです。
あなたは今、苦しむ必要があって苦しんでいるのです。それはだれでも一生のうちに一 度は越えなければいけない峠のようなものです。峠を越えたとき、輝いている自分を発見 できます。苦しみに正面から向かい合いましょう。いつかはきっと、あなたの人生にとっ て最も大切なものに気づいているはずです。
「心の苦しみ」は薬では治りません。卵からかえる前のヒナは自分の成長にもはや殻の 中が合わないために苦しみます。その苦しみが殻を破って新しい世界へ脱出するエネルギ ーになります。もし、ヒナの苦しみを気の毒に思い、薬で寝かしつけてしまえば、ヒナは 殻を破ることができません。
「心の苦しみ」を薬で治そうとするのは、ちょうど酒を飲むのと同じです。酒を飲むと、 一時的には苦しみを紛らわすことができます。でも、酒がさめたときにはまた苦しみがや ってきます。そこで、またあわてて酒を飲むことになります。そのようにして、しまいに は酒浸りになってしまいます。
薬も同じです。どんなに優れた薬でもそうです。長い間、薬に頼っていると、そのうち 心がまひしてしまいます。苦しみがないかわりに、喜びもない人生です。
しかし、そんな薬でも必要な時があります。家が火事の時、どうするでしょう。とにか く、水をかけて早く火を消すようにするはずです。薬は、火事の時の水と同じようなもの です。苦しくてどうにもならない時には薬をのんで、とりあえず心の火事を消すことです。 でも、いったん火事が収まると、今度は火の用心の勉強をしなければなりません。火事が 消えた後でも家に水をかけ続けていると、その家は住めなくなってしまいます。
「心の苦しみ」は何年もかかってやっと治るもの、あるいは「一生もの」、というふうに 思っていませんか。そのように思っていること自体が治らない原因の一つです。「心の苦し み」は突然、治ります。「あっ、そうか!」という気づきとともに、心が新しい世界にジャ ンプした瞬間に治ります。この時、「私は治るんだ」という強い気持ちがジャンプの原動力 になります。「私は治るんだ」という強い気持ちをもってください。
苦しんでいる人は思考の「自家中毒」におちいっています。考えがぐるぐると堂々めぐ りをする状態です。そんな思考の迷路から抜け出せば苦しみは消えます。
そのためには心を込めてこの世を見ることです。心を込めて、人を、木や草や大地を、 空を、見ることです。そのことで、心が「思考の迷路」から「見ること」に抜け出ます。 すると不思議なことに思考が消え、その瞬間に苦しみも消えています。そして、自分が喜 びに包まれて新しい世界にいることを発見します。それは人生でもっとも大切なものです。