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在宅酸素療法(2004年3月9日掲載)

名嘉村 博(名嘉 村クリニック)

国内初導入は沖縄

主に呼吸器疾患に適用

街で鼻に細い管(カニュラ)をつけて、手押し車(カート)や肩から担ぐバッグにボ ンベを乗せ酸素を吸入している人を見かけることがあると思います。病院を退院後、「在宅 酸素療法」によって自宅で酸素吸入を続けている方たちです。

在宅酸素療法は、呼吸器の病気では非常に大切な治療法のひとつです。医療関係者の間 では英語のHome Oxygen Therapy(=ホーム・オキシゲン・セラピー) の頭文字をとってホット(HOT)と呼ばれています。

この治療を受けている疾患で一番多いのが、主にタバコが原因で起こる肺気腫や慢性気 管支炎で、この二つはまとめて「慢性閉塞(へいそく)性肺疾患」と呼ばれています。こ の疾患では一日の酸素吸入時間が長いほど長生きしていることが証明されており、療法が 開始されたらできるだけ長く吸入することが望まれます。

次に多いのが結核後遺症です。そのほか間質性肺炎(肺線維(い)症とも呼ばれます)、 肺がんなどでも短期間実施されることがあります。さらに、これまでは呼吸疾患だけを対 象としていましたが、今年四月からは心臓の病気でも条件を満たせば保険が適応されるよ うになります。

酸素療法は以前は病院でしかできない療法でした。しかし、一九八〇年代の初めごろ、 アメリカやイギリスで肺気腫などの慢性の呼吸器疾患によって息切れが強く酸素欠乏状態 (低酸素血症)となった患者さんに連続的に酸素を吸入させたところ、日常生活の行動範 囲が改善し、さらに生存率も高まることが明らかになったことから、在宅療法としても次 第に普及してきました。

同療法が日本で最初に開始されたのは、ここ沖縄の地です。県立中部病院の前院長で、 現在、群星(むりぶし)沖縄臨床研修センター長の宮城征四郎先生が米留時にその重要性 に注目し、医療保険や種々の制度上の困難を乗り越えて国内初の導入にこぎつけたのです。

その意味で、在宅酸素療法は日本では゛沖縄発゛の医療のひとつとも言え、私も県出身 の医師として、また県民の一人として誇りに思っています。

さて、同療法は、一九八六年以降、国内でも健康保険が適応され、以前に比べると開始 しやすくなっています。開始するためには医療保険上いくつかの基準があり、病気が落ち 着いても長期にわたって低酸素血症が持続していることが重要な判断材料となります。

実際に開始すると、酸素の吸入量は病気の重症度、歩行や実生活の中での活動量などに よって変更されます。このため必要に応じて、指先での酸素飽和度や動脈血の酸素や炭酸 ガス(二酸化炭素)を測定します。

酸素吸入法としては前述した鼻カニュラがもっともよく使われます。酸素の流量が多い 場合にはマスクが必要なこともあります。酸素の供給源としてはボンベ、液体酸素、空気 から酸素をつくる酸素濃縮器があり、どれを使用するかは機器の長所と短所を考慮しなが ら病状と利用者の意向によって決定します。

できればこの治療法の世話にならないことが望ましく、そのためにはまず禁煙が予防の 第一歩です。しかし、この治療が必要となった場合でも自宅にこもらず、酸素を活用して 生活の質を上げ、うまく゛ホット゛に生きようと努力することも大切です。