耳鼻咽喉科領域のがん、つまり頭頸部がんは顔面、頭蓋、および頚部臓器に発 生するがんです。診断は触診と視診が主で、組織診断によって確定されます。
頭頸部には耳、鼻、のどがあり、それぞれの機能として、聴覚・平衡覚、吸気 の空調作用・嗅覚、味覚・そしゃく・嚥(えん)下、音声言語機能、そして顔の 表情、美容など、人間にとって重要なものがあります。これらの機能障害は生活 の質(QOL)を著しく低下させることになります。
日本では頭頸部がんは少なく、全がんに占める割合は5%程度です。そのため 一般の人が頭頸部がんを意識することはまれで、医師でも、耳鼻咽喉科の専門で なければ初診で診断することは少ないでしょう。
頭頸部がんの要因について述べます。
頭頸部がんの約%は「扁平上皮がん」という細胞で、男性に多発します。こ の扁平上皮がんの発生には、多くの男性が陥りがちな生活習慣が深くかかわって いると思われます。
具体的には過量喫煙、飲酒習慣、多弁で声が大きいなど、一般に生活態度が粗 野であることです。これらの状況が扁平上皮のターンオーバーを促進させる、つ まり正常組織をどんどん障害し、新たな組織をどんどん再生させようとします。 そのサイクルが速く、異常な細胞を発生させてしまい、がん細胞となるのです。
喉頭がんの喫煙者率はC.3%と高率で、社会から喫煙習慣がなくなれば喉頭 がんは三十六分の一に激減すると推定されます。一方、アルコールは元来、発が ん物質ではありませんが、たばこと相乗して発がんの土壌をつくると考えられて います。
また、上顎(がく)がんはかつて日本に多く、その発がん要因は慢性副鼻腔と 考えられていました。最近、慢性副鼻腔炎が減少するにつれて上顎がんが減少し、 この二十五年でロ%減となりました。
このように頭頸部がんの多くは、発がんに外的な要因が関係していますので、 予防が可能です。
写真タは他院で副鼻腔炎と診断され、三カ月治療した五十代男性の顔のレント ゲン写真です。目の下のほほの部分に子どもの握りこぶし大の上顎胴という骨の 空洞が左右存在します。正常なら空洞で、レントゲンでは黒く映ります。
ところがこの男性の場合、左の(向かって右)上顎胴が白く、胴内に何か貯留 しています。上顎がんでもこのようなことがあるので、がんも疑ってCTを撮り (写真チ)、胴内の洗浄と組織検査を行いました。結果はカビで、治療薬を変更 しました。がんではありませんでしたが、正しい診断により改善した例です。
難治性の疾患は多々ありますが、治療をしていても一向に改善しない場合、が んを含め、ほかの疾患を再チェックする必要があります。患者側も、そのように 意識して治療を受けることで診療の手助けともなり、患者さん自身、納得のでき る医療につながると考えます。