将来子どもを持つことを希望しているカップルにとって、妊娠・出産は普通に起こる事と思われるでしょう。しかし、決してそうではありません。なかなか妊娠できない不妊症の方が、全カップルの10〜15%もあります。さらに、不妊症や流産、赤ちゃんに問題の起こる割合は年をとるにつれて高くなっていきます。晩婚化と出産年齢の高齢化が進む現代、この問題を正しく理解し知識を持っておく事が必要です。
昔は35歳以上の妊婦さんには、高マークが付けられて、リスクの高い高齢妊娠と思われていました。今では、このような取り決めは差別的だとして行われなくなりましたが、そのため、妊娠と年齢の問題を意識するきっかけが少なくなってしまいました。平均寿命が延び、いつまでも若々しい人が増えても、女性の閉経年齢の平均は50歳で変わっていません。妊娠・出産に関しても高齢化による問題は依然として残っています。
昨年、「卵子の老化」が大きな関心を集めました。女性の卵子の数は、胎児の時が最も多く、閉経まで減り続けて、新しい卵子は作られないという特徴があるからです。つまり20歳の時に排卵した卵子は20年間、40歳の時に排卵した卵子は40年間出番を待っていた卵子という事になります。卵子も年をとって、妊娠しやすさは30代半ばから低下し始め、40代で急降下、43歳を過ぎると非常に少なくなります。このことは自然の妊娠でも不妊治療をしても同じように起こります。年齢を戻すことが出来ないように、加齢による変化を止めたり、回復させたりする事は今の医療では出来ません。
妊娠・出産に関して、加齢の問題は他にもあります。子宮筋腫や子宮内膜症のような妊娠に影響を与える病気を持っている人が増え、病状も進行している場合があります。高血圧や糖尿病などの内科的な異常も起こりやすく、妊娠中のリスクがより高くなります。妊娠・出産には適齢期があるとされるのは、このような問題があるからです。
100メートルを9秒台で走れる人を見ても、多くの人は自分に出来るとは思いません。しかし、45歳で出産した人の話を聞くとその年齢でも大丈夫なのだなと簡単に思ってしまいます。不妊治療をしている医療現場では、もっと早く妊娠を計画すれば苦労せずに妊娠できたはずなのにとの思いがあります。子どもが欲しかったのに手遅れとならないために真剣に考える機会を持っていただけたらと思います。