関節の痛みを訴えて整形外科を受診される患者さんはとても多く、その中でも膝関節痛はその大半を占めます。関節痛を診察する場合は必ず左右の関節を比較します。腫れ、発赤などを観察し、次に実際手で触って関節の状態を診ます。その際よく見受けられる症状に関節水症があります。いわゆる関節に“水”がたまっている状態です。その水の正体とは滑液(かつえき)という液体です。滑液は関節内にあり正常では膝関節では約1cc程度しかありません。
淡黄色で粘性のある液体でヒアルロン酸やタンパク質などを含み、関節の動きを滑らかにする作用とともに軟骨細胞へ栄養分の供給などの役割を果たす液体です。この滑液は滑膜(かつまく)という組織から作り出されています。しかし関節に強い負荷や、慢性的な刺激、変形などで関節の不安定性がおこることで滑膜炎が誘発され滑液が異常に作り出されたことが関節水症として認められます。また関節に液体がたまる原因として時に血液であったり、強い炎症からおこる濁った滑液、または膿(うみ)であったりすることもあります。関節に針を刺してどのような液体がたまっているかを見ることが病気の原因検索にはとても役立ちます。
外来でよく耳にするのは「関節の水を抜くと癖にならないですか」です。これは私が以前勤務していた東京や栃木県の患者さんも同じことを言っていたので全国的に共通する間違った認識なのだなと思いました。
ではなぜ関節にたまった液体を抜かないといけないのかというと、液体がたまることによって関節内圧が高くなり関節軟骨に悪影響を及ぼします。また痛風や、関節炎などで濁った関節液を放置しておくと軟骨損傷を助長し、さらに痛みも激しくなります。関節にたまった液体を抜くことは診断と治療を兼ねた最善の処置なのです。一度関節に滑液がたまると外来で数回抜くこともまれではありません。滑液を抜くと癖になるのではなく、抜かないといけない関節炎をおこしていると理解してください。
以前に痛風様の膝関節炎で約100ccの濁った滑液を抜いた患者さんもいます。先にも述べましたが、関節に液体がたまるのはそれなりの原因があるからです。その原因は単純ではないものもありますので、関節に違和感を覚えたら整形外科を受診し適切な診断、処置を受けましょう。