みなさん、診察室で胸やおなかに器具をあてられて診察をうけたことが、おありでしょう。これは聴診器というもので、心臓、血管、肺、腹部などからの音を聴く(=聴診)道具です。
心臓が病気になったとき、異常な音がすることは古くから知られていました。ずっと昔は患者さんの胸に直接耳をあてて心臓の音を聴いていましたが、さすがに女性の診察をする場合に問題がありました。
今から約200年前、この問題をなんとかしようと考えたフランス人のラエンネックが、子供の糸電話のような遊びからヒントを得て、患者さんの胸に、木でできた筒状の器具をあて、片耳で心臓や肺の音が聴こえるよう工夫しました。これが聴診器のはじまりです。その後改良が重ねられ、現在のような形の聴診器が完成したのは1926年のことです。
先人たちにより、聴診器を用いて、いろいろな病気ではどんな異常な音が聴こえるのか研究が重ねられました。その情報は1冊の本ができるほど豊富です。
では聴診ではどんなことがわかるのでしょうか?
心臓は1分間に約70回筋肉が収縮と拡張をくりかえし、全身に血液をおくりだします。その血液の流れの方向をコントロールするのが弁膜です。
弁膜が閉じるとき、正常ではダッ・タという二つの音がセットで聞こえます。これをI音および2音といいます。心臓のポンプ機能が弱かったり、心臓が広がりにくくなると、正常では聞こえない過剰な音が聴こえます(ダッ・タ・ダ=3音、ウ・ダッ・タ=4音)。
弁膜が狭くなったり、逆流したりすると、心臓雑音が聴こえます(ダッ・ガア・タまたはダハアアタなど)。また同じ患者さんの心臓の音を繰り返し聴いていると、病気の進行や調子の悪さがわかることもあります。
このような心臓の聴診と頸動脈(けいどうみゃく)、頸静脈などの触診(触って行う診察)や視診(目で見て行う診察)などと組み合わせて行う五感を用いた診察を、心臓理学所見といいます。理学所見ですべての心臓病がわかるわけではありませんが、日常診療において、心臓病の専門医として、聴診器なしで診療することは不可能といっても過言ではないくらい重要なものです。
さあ、今日もしっかり心音を聴いて診察するぞー! でもときどき患者さんからつっこまれます。
「先生、もう診察終わり? 今日は聴診器あてなくていいの?」
「あちゃー、忙しすぎて忘れていたサー」