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赤ちゃんの虐待死亡(2013年2月11日掲載)

佐久本薫・県立南部医療センター・こども医療センター

出産前から妊婦支援を

母親や父親による児童虐待や育児放棄のニュースが流れるととても暗い気分になります。何とか防げないものかと誰しも思います。2011年7月に厚生労働省から「子ども虐待による死亡事例等の検証結果について(第7次報告)」が出されました。この中で生まれた当日の赤ちゃん(日齢0日児)の虐待死亡が大きな問題として取り上げられました。03年から10年までに日齢0日から1カ月未満児の虐待死は77人(69事例)でした。その内、生まれた当日の赤ちゃんの死亡が67人でした。

日齢1日以上から1カ月未満に亡くなったのが10人でした。加害者は、実母が最も多く87%でした。実母の年齢の平均は28・2歳で19歳以下が17例(25・4%)と最も多く、続いて36から39歳が13事例(19・4%)でした。69事例中54例(80・6%)が望まない妊娠でした(複数回答)。家族が妊娠に気づいていたのは、19歳以下の13事例中わずかに1例でした。望まない妊娠への対応が十分でないことや家族などが相談相手になっていないことが指摘されます。また、妊娠出産の届け出時や産科入院時のリスク評価が不十分で、妊婦さんへの継続した支援ができていないといえます。

この報告は関係者に大きなショックを与えました。厚労省は地方自治体や出産を取り扱う産科医や助産師への協力を呼びかけています。望まない妊娠について相談できる体制の充実、経済的な支援、里親・養子縁組制度の周知、各機関の連携などが地方自治体に求められています。出産前からの産科診療所と母子保健担当、児童相談所などとの連携も大切になります。那覇市では要保護児童対策地域協議会で対策を進めていて、沖縄県産婦人科医会も協力体制を取っています。

虐待により死亡に至るリスクとして、妊娠を届けず母子健康手帳が発行されていない、妊婦健診を受けていない場合や途中で受診しない例、妊婦のうつ病などの精神疾患、医師・助産師が立ち会わない自宅出産などが指摘されています。このようなリスクの高い妊娠女性を早く見つけて支援していくことが必要です。

働く女性が増え、出産、子育てが簡単ではなくなりました。望まない妊娠も少なくなく、若年者の妊娠中絶も問題です。家族や周囲が妊娠に気づいてあげて適切なアドバイスをしてほしいと思います。母子健康手帳の交付時、妊婦健診の際にも妊婦の悩みに気づき、適切な支援を行うことが大切です。出産前からの妊婦を支援し、生まれた当日の赤ちゃんの虐待による死亡をなくし、その後も子育て支援を継続し、乳幼児虐待をなくしていきましょう。