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家族が認知症になったら(2013年1月28日掲載)

吉田朝啓・勝連病院

温かく見守る雰囲気を

歳をとると、人は皆呆(ぼ)ける。最後までシャンとしたまま逝く人もいますが、大抵は時間や場所や人間関係の認知が薄くなっていきます。それをボケ、痴呆(ちほう)、耄碌(もうろく)と言ったり、方言では「カニハンディトーン」と呼んだりします。

「カニ」とは、もともと大工さんが使うL字型の物差しで、広く社会の取り決めや嗜(たしな)みのことを意味します。それが外れることを「カニハンディトーン」と呼びました。医学用語では認知症といいます。

多くの場合、まず記憶力が弱くなり、物の順序や場所柄や人との間柄など、身の回りの些細(ささい)なことが曖昧になり、自信がつかなくなることから始まります。その程度のこと(初期症状・中核症状)だったら、家族内でゆるやかに対応して、年取ればこれぐらいのことは当たり前と、隣近所の人も許してあげる寛容な雰囲気であれば、「幸せで穏やかな痴呆」に進んでいきます。

だが、周りの人が困惑して、呆けだ、痴呆だ、カニハンディトーンと色めき立つと、本人はますます自信を失い、混迷し、異常な判断と行動(周辺症状)をするようになります。

夜中に起きてゴソゴソしたり、死んだはずの夫がそこに立っていると指さしたり、用もないのに外出して帰って来られなくなったり、自分の娘に「あなた誰?」と聞いたり、家族にとってはショッキングな行動の数々。こうなると、介護のために家族の生活が拘束され精神的な重圧が加わるようになり、社会全体の生産性が落ちます。

全国65歳以上のおよそ14%(7人に1人)が認知症患者で、沖縄県では17%(6人に1人)だといわれますが、他人ごとではないのです。認知症はどこの家庭でも起こり得る出来事だと考えて、覚悟しておく必要があります。

もし、身近に認知症が認められたらどうするか。(1)不安感を無くす(目を見ながら優しく話す)(2)プライドを大事にする(楽しい記憶や思い出を尊重し、経験を否定しない)(3)失敗を叱らない(さりげなく始末して大丈夫だと安心させる)(4)無理に教えない(しつけたり注意を繰り返すと不快感だけが残る)(5)聞き上手になる(同じ事の繰り返しでもやんわりと相づちをうち、否定しない)(6)一度に二つのことを言わず、分かりやすく正面から話しかけましょう。

地域全体がこのような温かい気風に満ちて、「高齢者が尊厳ある一生を全うできる共同社会」を保っているところが南城市にあるそうです。行ってみたいところです。