インスリン治療に関して、注射が怖い、一生ずっと打つのが嫌、他人に知られるのが嫌、人と違うことをするのが嫌、等の考えをもっている方が多数だと思います。果たして本当でしょうか?
インスリン治療を患者と医師に行ったアンケートがあります。医師自身が糖尿病であった場合、治療開始を考慮するHbA1cは7・7%(JDS値・以下同)、医師自身が患者にインスリンを考慮するのは8・3%、さらに医師自身が実際に患者にインスリン治療を勧めるのは9・2%と、患者にインスリンを勧めるタイミングが先送りになっている事がわかりました。
また医師が患者への治療を断念した理由で35%と最も多かったのは「患者さんの同意が得られなかった」というものでした。
が、いざインスリン治療を開始した患者の49・2%が「もっと早くから始めればよかった」と感じ、否定的感情は実際に治療を開始した患者では有意に改善していました。
これから言えるのは患者がインスリン療法を受け入れできない理由を医師が正確に把握・理解していない一方で、患者側も治療に対する理解が不十分で、双方の認識の不一致が治療の最大の妨げになっている事です。
現在はさまざまな機序の経口血糖降下剤を、病態に応じて多種併用できる便利な時代です。しかし、インスリン療法は90年もの間、血糖値を下げ、HbA1cを確実に低下させる治療法として君臨しています。とは言うものの、これまではどうしても最後の手段と捉えがちであったのは否めません。
そのように使用してきた結果、糖尿病から派生する合併症(神経障害・網膜症・腎症)の進行や、心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑えきれなかった一つの要因であったと、考える事もできるでしょう。
糖尿病治療のLegacy effect(遺産効果)が言われるようになり、より初期からの積極的治療がひいてはその後のよりよい治療、よい予後をもたらす、良好な血糖コントロールの意義が改めて認識されています。
少しはインスリンに対する見解がかわったでしょうか?
「いやいや、やはり怖いし、嫌なものは嫌だ!」と言ったところですか? まずは主治医に治療の不安・恐怖・疑問を聞いてみてください。インスリン導入まで時間がかかっても構いません。種類や効果、そして医療費用なども納得したうえで勇気を持って選択してみてください。その一歩こそが健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持につながることを願って。