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バセドウ病の放射線治療(2012年11月19日掲載)

宮国 孝男・那覇市立病院

世界で施行 ヨード内服

福島第1原発の事故で放射線への不安感が高まっており、福島県ばかりでなく東京都、神奈川県などからも放射線を避け沖縄県へ移住してくる人もいるほどです。原発の近隣に住んでいる人や、とりわけ小さな子どものいる方たちが放射線による健康被害を心配する気持ちは十分理解できますし、不必要な被ばくはしないに越したことはありません。

一方、医療の世界では放射線はなくてはならないもので、X線やCTなどの検査はさまざまな疾患の診断に必要不可欠のものです。また、放射線照射はがんの治療によく用いられますし、転移性骨腫瘍の治療にはストロンチウム(89Sr)の注射も行われます。甲状腺ホルモンを過剰に産生するバセドウ病の治療にも放射線治療を行うことがあります。多くのバセドウ病患者さんは薬物療法で治ります。しかし、薬による副作用がでたり、2年以上薬を飲んでも治癒の見込みが立たない患者さんは薬物療法以外の治療法に変更したほうがよいといわれています。すなわち手術もしくは放射線治療のどちらを行うかを検討することになります。

バセドウ病の放射線治療はヨード治療とも呼ばれ、放射性ヨード(131I)を内服します。内服されたヨードはほぼ100%甲状腺に集まり甲状腺細胞を破壊し細胞数を減少させることでホルモンの産生を抑えます。放射性ヨードを内服すると言うとギョッとするかもしれませんが、この治療法は60年前から行われており安全で有効な治療法とされ世界中で施行されています。手術と異なり傷が残らず副作用・合併症がほとんどありませんが、治療効果は手術と同等です。治療後時間が経過するに従い甲状腺機能低下症が増加しますが、これは治療の効果と判断されます。

もちろん短所もあります。手術に比べると治療効果が得られるまでの期間が長いこと、治療前に食事制限があること、特殊な設備が必要なため治療できる病院が限られていることなどです。また、妊婦や授乳している方、目の症状が強い方には施行することができません。

米国ではバセドウ病患者の70%がヨード治療を受けていますが、日本では放射線に対する不安が強いためかまだまだ治療を受ける方が少ないのが現状です。二次がんや白血病の発病を心配してのことと思いますが、ヨード治療を受けた方の追跡調査でがんや白血病は増加しないことがわかっています。放射線は危険で有害な面もありますが、医療においては適切に使用することで大きなメリットが得られます。放射線を必要以上に怖がらず正しい知識を持って治療法の選択をすることを期待します。