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大腸がんの治療(2012年8月27日掲載)

西巻 正・琉球大学医学部付属病院

肛門温存 進む手術開発

当院に紹介されていらっしゃる大腸がん患者さんの多くが「袋下げることになりますか?」と質問されます。大腸がん=袋を下げる(人工肛門)と考えているからだと思います。実際にはほとんどの大腸がんは術後、人工肛門にはなりません。きわめて肛門に近い所にがんができた場合(下部直腸がん)に肛門を一緒に切除しなければならない場合があり、結果的に便の出口を別に作る必要が生じます。そこで直腸を切った断端を腹部(多くは左下)に出します。それが人工肛門です。

便が漏れないように肛門をしめる筋肉(肛門括約筋)が人工肛門にはないため、腸が動くといつでも便が出ます。そのため、それを受ける袋を付ける必要があります。大変な状態になるように思えますが、人工肛門となっても手術前と同じように仕事をされている方が大勢います。

とはいえ、やはり元の状態でありたいと思うのはもっともで、こうした願いをかなえるための研究の結果、肛門近くにできたがんでも、肛門を残せる手術(肛門温存手術)が開発されました。しかし、実際には肛門を形だけ残すのではなく、ちゃんと機能する状態で残さなくてはなりません。この手術は、世界的には1990年代、日本では2000年以降に広く施行されるようになりました。具体的には肛門を閉める筋肉のうち、内肛門括約筋と呼ばれる筋肉までを切除し、外肛門括約筋を温存することで機能を温存します。

さらに進んで、内肛門括約筋と外肛門括約筋を一部切除し、肛門機能温存を図る手術も、またこれらを腹腔(ふくくう)鏡下で施行する(傷の少ない)手術も開発されています。残念ながら、これらの手術でも吻合(ふんごう)部の安全を図るために一時的な小腸人工肛門を作ります。しかし、この人工肛門は約3〜6カ月後に閉鎖され、元のように肛門から便が出るようになります。

過去の肛門合併切除した症例を見直すと、そのうち約8割は肛門合併切除例が避けられた事が分かりました。当院でもこの術式を04年から取り入れ50例余りに施行しています。その結果、直腸がんで肛門を合併切除する症例が激減し、人工肛門となる症例が少なくなりました。

しかしながら都合の良い事ばかりではなく、手術後は排便回数が増加する(頻便)、括約筋の機能が十分残っておらず、便漏れがあるなどの問題点があり、まだまだ術式改善が研究されています。このようにがんの治療にも機能温存を考えた手術の開発が進んでいます。