沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2012年掲載分 > ステントグラフト内挿術

ステントグラフト内挿術(2012年7月16日掲載)

永野 貴昭・琉球大学附属病院

負担少なく大動脈瘤治療

近年沖縄では、「26ショック(沖縄男性の平均寿命が全国26位へ転落)」に代表されるように生活習慣病が問題となっています。食生活の欧米化、運動不足による生活習慣の乱れ、それらの結果として日本一の肥満県となり、さらには死亡率の上昇につながっています。

その生活習慣病を大きな要因の一つとしておこる大動脈瘤(りゅう)をご存じでしょうか。大動脈の一部が拡大して瘤=「こぶ」を形成する病気で、ほとんどが無症状で知らないうちに瘤が大きくなり、ある日突然破裂(=体内で多量出血する)し、死にいたる怖い病気です。

その多くは動脈硬化が原因ですが、高血圧、喫煙、糖尿病、高脂血症、肥満などは動脈瘤の促進因子(出来やすくする)となります。

高血圧のことをサイレントキラー(沈黙の殺人者)と例えられますが、大動脈瘤はまさにサイレントボンバー(沈黙の爆弾)と言ってもいいでしょう。

さまざまな医療分野で低侵襲(体に負担の少ない)治療が求められている今日ですが、この大動脈瘤に対する手術治療においても新しい治療「大動脈ステントグラフト内挿術」が開発され、急速に広まっています。

高齢者や、呼吸器や心臓などの病気で従来の外科手術による治療は困難という患者さんにも有力な手術治療法となっています。

ステントグラフトとは、ステントと呼ばれる形状記憶合金の網状の筒とグラフトと呼ばれる人工血管素材を組み合わせたものです。

これを棒状にした状態(傘のように細く折り畳んだ状態)でシースという鉛筆ぐらいの太さの管に収めます。

そのシースを体の表面近くの動脈(足の付け根付近)を切開して挿入し、患部(瘤の位置)まで押し進め、ステントグラフトをシースより押し出します(傘を開く状態)。

押し出されたステントグラフトは形状記憶の作用と血圧により血管の内壁に押し当てられ血管の内部より患部を補強し、大動脈瘤が破裂するのを防ぎます。

従来の瘤を切り除くという手術と異なる全く新しい治療で、出血量や合併症も開胸・開腹手術より格段に少なく、入院期間、社会復帰までの期間も短くすみ、多くの点で患者さんの負担が減っています。

ステントグラフトの品質改良により、さらに多くの患者さんに対応できるステントグラフトも登場してきています。