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放射線治療器(2012年5月15日掲載)

竹本 真也・南部徳洲会病院

トモセラピー 体を傷つけず がん治療

「放射線治療」に関して、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか? 放射線は危険そう、末期患者への気休めの治療、などというイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。

実はこれらのイメージの多くは誤解です。今や放射線治療はがん治療に欠かせないものであり、体を傷つけず生活の質を保てる治療として期待されています。欧米ではがん患者の約6割が放射線治療を受けているのに対し日本では全体の約3割にとどまっていますが、患者さんの数は増えつつあります。

放射線は見えず、痛みも感じません。横になっていれば治療は終わり、体への負担が少ないのが特徴です。通常は連日少しずつ放射線を当て、がん細胞のデオキシリボ核酸(DNA)を傷つけて死滅させます。ただし周囲の正常組織に放射線が当たることで副作用が出る事があります。しかし、近年放射線治療器は目ざましい進歩を遂げ、以前の治療と比べて正確かつ複雑な治療が出来るようになりました。

トモセラピーは「強度変調放射線治療」の専用機で、コンピューター断層撮影(CT)に似た装置です。360度回転しながら放射線の形や強さを自在に変えることで、がんの形に合わせて放射線を当て、周りの正常組織はなるべく避ける、といった複雑な照射を行うことが可能です。また、健康保険が適応となるため経済的負担も抑えられます。

トモセラピーはほぼ全身に対応できる守備範囲の広い治療器ですが、中でも得意とする疾患に前立腺がんが挙げられます。前立腺がんは高齢男性に多く、食生活の欧米化に伴い増えています。初期は自覚症状が少なく、進行すると尿が出にくくなったり、骨やリンパ節に転移したりします。近年は健康診断などの血液検査で早期に発見される事が多くなりました。

早期の前立腺がんの放射線治療成績は手術と同等であり、副作用も一般に軽いとされています。前立腺に放射線を当てつつ、周りの膀胱(ぼうこう)・直腸をなるべく避けるようにするのですが、尿や便、ガスで前立腺が動いてしまうのが問題です。しかし、トモセラピーでは毎回治療前にCTを撮影し、前立腺の位置をミリ単位で補正してから放射線を当てることが出来ます。

近年、放射線治療は進歩し、がんで苦しむ方の助けになれる場面が増えています。放射線治療に興味を持たれた方は主治医の先生とよくご相談になり検討していただければ幸いです。