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重篤な粟粒結核(2012年3月27日掲載)

久場 睦夫・国立病院機構沖縄病院

高熱や倦怠感は要注意

近年わが国の結核は減少してきてはいますが、その減少速度は鈍り、いまだに2万3千人を超えた新規患者をみています。世界的には中蔓延(まんえん)国となり、こと結核に関しては他先進国に大きく後れをとっています。

本県の結核罹患(りかん)率はほぼ全国平均ですが、(2010年度は人口10万対18・7で同年の全国平均は10万対18・2)11年度の新規結核患者の発生数は269人で10年度の260人、09年度の235人に比し増加傾向を示し、ここ数年横ばい状態といったところです。

結核の治療結果については、近年医療機関や保健所の徹底した服薬指導等により一般に良好ですが、中には治療法の進歩した現在でも不帰の転機をとってしまう病態もあります。その代表例が粟粒(ぞくりゅう)結核です。

粟粒結核とは、大量の結核菌が血液の中に入り、肺や肝臓、腎臓、脳など全身に広がる重篤な結核です。全身の複数臓器で無数の1〜2ミリメートル大の粟粒様病変を呈することから粟粒結核といわれます。この粟粒状の病変は、多くの場合胸部X線写真(レントゲン)や胸部コンピューター断層撮影(CT)で発見されます。しかしこの粟粒状の陰影はすぐに現れるのではなく、粟粒結核が発症後2〜3週間たってから出現します。

粟粒結核の症状はというと、ほとんどは38度以上の高熱で発症します。このため当初は熱だけでレントゲンも正常のため、熱の原因である結核がとらえがたい事が多く、不明熱とされる事もしばしばです。病変が脳におよび意識障害をきたした後、診断される事もあります。

この疾患は免疫の低下した方に発症しやすく、高齢者やステロイド剤などの免疫抑制剤を服用している方に比較的多く発症いたします。しかし特に基礎疾患がなく、それまで健常であった方にも不摂生等により罹患する事があります。

当院では毎年10例近くの本症を診療しています。やはり70歳以上の高齢者が多いのですが、基礎疾患のない30歳代の方もおられます。多くの方は軽快されますが、特にご高齢で受診の遅れた方等は残念ながら治療に抗して死亡される場合があります。死亡率は約30%と高く、診断・治療の発達した現在でも怖い病気です。

発症時は高熱が多いのですが、倦怠(けんたい)感や食欲不振も多くみられます。高齢の方やステロイド剤など免疫抑制剤を服用されている方等は要注意です。高熱の持続、あるいは高齢者で熱は高くなくても軽〜中等度の熱と元気のなさが数日も続く場合は粟粒結核も念頭におき、早めに受診しましょう。