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脳転移のがん患者(2012年3月6日掲載)

宮城 航一・沖縄セントラル病院

ガンマナイフ治療が効果的

がん患者は(1)がんと診断された時(2)手術の前(3)転移が明らかになった時、そして(4)すべての治療を断念せざるを得なくなった時が最もつらいという。

脳転移を告知されて間もない方々が、ガンマナイフセンターに紹介されてきます。絶望と不安の中を受診されるので、診察室は緊迫した空気が張り詰めます。私が一番大切に思っていることは、ガンマナイフ治療の適応基準ではなく、目の前の患者さんに「私がして差し上げられる最善はなんだろうか?」です。

ガンマナイフは転移性脳腫瘍(しゅよう)など脳病変を治療対象とする定位放射線治療装置です。半円球状に配列した201個のコバルト線源から照射されたガンマ線ビームは一点に集中するよう設計されています。正常脳組織への被ばくは抑えられますが、病変部は通常の放射線治療で用いられるよりも極めて高い線量が照射されます。脳の深い部分や重要な機能を担う部分に病巣がある場合、大切な機能を温存して病変部だけを選択的に0・1ミリメートル以下の精度で治療できます。

本院でガンマナイフ治療を受けた転移性脳腫瘍の方は約1300人を数えます。原発巣で多いのは、肺がん、乳がん等で、脳に転移する率は、それぞれ40・8%、50・8%と報告されています。

ガンマナイフ治療は、脳転移による死亡の回避、患者さんの生活の質の維持・回復に有効です。局所麻酔下に治療が可能なので、全身麻酔が危険なため手術できない高齢者にも適応できます。脳幹等、手術困難な部位に生じた転移巣にも治療が可能です。

治療に伴う合併症の発生率は、手術の30%に対して4%と極めて少なく、また被ばく線量も少ないので、新病巣が出現しても繰り返し治療できます。脳転移巣の局所制御率は84%、1年における神経死予防率は88・5%です。従来、脳転移をきたしたがん患者の大多数は、脳転移が死亡の原因となっていましたが、ガンマナイフの出現で、脳転移が死因となる率が激減しているのです。

紹介時、手が付けられない程大きな転移巣の場合もあります。もっと早く磁気共鳴画像装置(MRI)検査を受けていたらと思わされます。「がん」の30%は脳に転移するのだから、脳症状がなくとも定期的に脳造影MRI検査を受ける方がよいのです。

今後も転移性脳腫瘍の方々に「私がして差し上げられる最善は何か?」を追求していきたいと思っています。