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訪問診療(2012年1月24日掲載)

富村 文彦・トントンホームクリニック

家庭療養のお手伝い

電話をすれば、すぐにかけつける。どこの家でも、誰にでも往診する。急に意識がなくなった、けいれんしたなど、すぐに対応する。訪問診療のイメージはこのようなものでしょうか。申し訳ありません。訪問診療は、はじめての患者さん、時々しか診ない患者さんの救急対応は得意ではありません。病院のように、人手があるわけでも、設備が整っているわけでもないからです。

話は変わりますが、みなさんはどのような旅立ち(亡くなり方)を望まれますか。

「家族が旅立つときはその瞬間に立ち会っていたい」と望まれる方は多いと思います。

一方、自分のときは「眠るように静かに」と願っている方も多いと思います。

「眠るように静かに」は、周りから見れば気が付いたら旅立っていた、というかたちでしょうか。

さびしがり屋はみんなにみとられながら、夫(妻)が大好きな人は夫(妻)の前で、恥ずかしがりで十分満足した人は夜みんなが寝静まった後。それぞれの心に合った旅立ちが、最後の最高の贈り物です。

百歳近くで一人暮らしのAおばあちゃん。数年前から24時間の家政婦を息子さんがお願いし、ケアマネジャー、訪問看護、訪問リハビリの助けを借りながら診ていました。息子さんは毎日朝晩顔を出し、患者さんに対する深い愛情があふれていました。その深い愛情に周りが押しつぶされそうになることもありましたが、みんなで支えあい、息子さんにも納得してもらいながらの旅立ちで、家族葬で送られました。

在宅で旅立つ方ばかりではありません。呼吸苦があり病院で肺がんが発見されたBさん。家族の希望により、本人に病名は告げられませんでした。病院では不満が募り、逃げるように退院したBさん。在宅では、酸素(毎分3・5リットル)をしながら墓参りをし、笑顔もみられました。呼吸苦が耐えられなくなった時、再入院し数日後に旅立ちました。

それぞれの患者さん・家族・介護者によって、安心できる生活はいろいろです。時期、状況によって適した居場所も変わります。

訪問診療では、患者さんを定期往診し、家庭療養の手助けをします(旅立ちも生活の一部です)。24時間、365日電話相談を受け、必要があれば往診します。患者さんの状態にあった居場所をいっしょに考え、患者さん・家族・介護者が安心して暮らしてもらえるようにお手伝いします。患者さんができること、家族・介護者がしてあげられることのお手伝いをします。