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人工心臓(2012年1月17日掲載)

國吉 幸男・琉球大学大学院教授

重い心不全の治療法

心臓の基本パーツは(1)筋肉(2)弁(3)冠状動脈、ほかであります。いずれも重要で、一つでも故障すると心臓全体の働きに支障を来します。軽い故障は、お薬で対処できますが、重症の故障については代替え品にて取り換える心臓外科手術を行う必要があります。

しかしながら、(1)の筋肉(心筋)だけは代替え品がありません。現在、このような心筋そのものの機能不全に対しては心臓移植治療が行われており、1967年に世界最初の心臓移植が行われて以来、現在では通常治療法となっています。

しかし、この治療には新鮮な心臓が必要です。現在、世界中で移植臓器が不足しており、特に日本では深刻で、米国の年間平均2000件の心臓移植手術数に対して、昨年本邦で行われた心臓移植件数はわずか31件でした。

心臓移植治療と平行して、人工的に心臓をつくる研究が始まりました。世界最初の人工心臓の試みは、57年米国において日本人の阿久津教授とコルフ教授による動物実験が最初です。この研究の方向性は、心臓全体を人工的につくり、病んだ心臓と入れ替えるというものです(全置換型人工心臓)。

米国では、ケネディ大統領による「アポロ計画」により10年間で月に人間を送ったのに自信をえて、同程度で人工心臓が完成できると考え、ケネディ大統領暗殺後のジョンソン大統領により「アメリカ人工心臓計画」と称した国家プロジェクトが開始されました。

しかしいまだに、臨床使用できる全置換型人工心臓は完成していません。

一方では、自己の心臓を残して心臓を補助する「補助」人工心臓の研究・開発が進められてきました。80年代からは臨床使用がなされ、現在では心臓移植を待つ多くの患者さんがこの装置で「しのいでいる」状態が続いています。

しかし、この補助人工心臓は、その装置本体が体外に設置されるために入院が必要で、移植待機患者さんは長期入院を余儀なくされているのが現状です。そこで、この本体部分を体内へ植え込める「植え込み型補助人工心臓」が開発され、昨年4月から保険診療として臨床使用されています。この植え込み型であれば入院せずに日常生活が可能であり、結婚して幸せな家庭生活を送っている患者さんもいます。

人工心臓は重症な心不全に対する治療法の一つであり、今後のさらなる研究・開発が進み、一人でも多くの患者さんへの福音になることを大いに期待したいものです。