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乳がんについて(2011年12月27日掲載)

池原 康一・中部徳洲会病院

治療は乳房再建まで

日本人の高齢化に伴い、がん患者は増加しております。とりわけ急激に増加しているがんは乳がんです。30年ほど前までは女性30人に対して乳がん患者は1人であったが、最近では16人に対して乳がん患者は1人といわれています。

実際にみなさんの身近にも乳がんの患者さんがおられ、乳がん患者が増えていることを実感している方も少なくないと思います。

国や自治体の努力により乳がん検診受診率も少しずつ増加してきました。早期発見によって、乳がんは治すことができるのです。

また治療も進歩しております。手術、放射線療法、抗がん剤療法およびホルモン療法の進歩は目を見張るものがあります。乳がん治療としては効果が高く、しかし全身的には侵襲が少ないように改善されてきました。

さて、乳がんの治療は終了し、10年間の経過観察も無事終了しました。主治医に「乳がんは治りました」と説明されて、それで患者さんは幸せでしょうか。いえ、患者さんは少なからず問題を抱えたままなのです。それは治療(手術)によって生じる新しい問題で、乳房の喪失や変形などの整容性の問題、また手術創や放射線照射による皮膚の弾力性の喪失によって生じるツッパリ感や疼痛(とうつう)などです。これからの乳がん治療は適切に診断し、適切に治療するのみならず、整容性の回復を図ることにより、患者さんのQOL(生活・人生の質)を向上させる治療計画をたてることが大切と考えます。

それには乳腺外科医だけでは限界があります。乳腺外科医と形成外科医との連携のもとに治療を勧める必要があると考えます。またそれを経済面で支える保険制度の解決も必要と考えます。現在、乳がんの診療体制は少しずつではありますが、それらの問題解決に前向きに進みつつあるようです。

最近の手術では、乳房温存術が多く行われておりますが、それによる変形はさまざまであり、適当な再建方法がありませんでした。ところが、再生医療の技術を用いて、乳房再建が行われるようになりました。この方法は幹細胞と皮下脂肪を変形部位に注入し再建するため、自在に再建することが可能です(ウォール・ストリート・ジャーナルでも紹介されました)。乳がん術後の患者さんの希望の光となる可能性のある手段ではと考えています。

現在は2人に1人が何かしらのがんにかかる時代です。誰が乳がんにかかってもおかしくない時代です。医療側は乳がん患者の未来が少しでも明るいものとなるように研鑽(けんさん)し続ける必要があるでしょう。