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胸部単純X線写真(2011年10月4日掲載)

石川 清司・国立病院機構沖縄病院

病気の情報を1枚に集約

住民検診、職場検診、人間ドック等で胸部の検査に用いられるのが「胸部単純X線写真」です。手軽に撮れるこの1枚のX線写真で多くの方々が健康を取り戻し、また「命」が救われたことは事実です。診療現場において、種々の大型・精密診断機器が開発される中においても、昔ながらのこの単純X線写真は重要な地位を保ち続けています。

一般の方々は、胸部X線検査の結果「異常なし」の判定が下された際に、すべてが正常だと解釈します。しかし、医学の世界には万能な検査法が無いのと同様に、この胸部X線写真にも限界があります。基本的には、立体的な人間の体を1枚の平面の写真に写し出すところに無理があります。

病変が鎖骨や肋骨(ろっこつ)に重なる、心臓に重なる、そして横隔膜に重なると2〜3センチの大きさの病気も見えないことがあります。また、撮影の際の条件によっても写り具合が微妙に異なるように、ぼやけたり、消えてしまったりすることがあります。

最近、増加の傾向にある淡い影の肺がんや1センチ以下の小さな肺がんはこの単純写真では見つけることは困難です。

家庭での記念写真等では、きれいに撮れているか、若々しく撮れているかなどの印象で写真をながめます。X線写真では、若い人には結核等の感染症の有無、がん年齢の方には悪性腫瘍(しゅよう)がないかどうかに注目して写真を読みます。漫然と眺めるのではなく、目的意識をもって写真を読むことと、前述の写真の弱点を意識しながら、病気を見落とさないように注意を払います。

胸部X線単純写真の弱点を補うために、検診(健診)のフィルムは1枚の写真を二人の医者が別々に読みます(二重読影)。それから以前の写真との比較を行い(比較読影)、最終的に精密検査の必要性を判定します。1枚の写真が、その人の命に深くかかわることを念頭に置いて、慎重に読影がなされます。

肺炎、結核、肺気腫、びまん性陰影、気胸、縦隔(じゅうかく)や肺の良性・悪性腫瘍等々の多くの病気がこの1枚の写真に写し出されます。単純X線写真の盲点を補い、そして精密検査のためにコンピューター断層撮影(CT)が用いられます。肺がんという病気が60歳代から70歳代にかけて急速に増加することを念頭において、単純X線写真とCT検査を使い分けることが大切です。

20年、30年前の検診の1枚の写真で発見され、治癒という恵みに預かった肺がんの患者さんとの外来での思い出の話の中に、「命」の重みを、「検診(健診)」の大切さを痛感します。「たかが1枚、されど1枚」。