沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2011年掲載分 > 医療メディエーション

医療メディエーション(2011年5月10日掲載)

西銘 圭蔵・とよみ生協病院

患者側と医療者 橋渡し

新聞紙上でときどき医療事故が報じられます。残念ながら、医療に100%安全な行為は存在しません。人体の構造は極めて個別性が強く、とりわけ、血管や神経の走行については顕著です。また、薬剤に対してもアレルギー反応や代謝・分解速度が異なるなどによって予測できない医療事故につながります。

医療事故については、患者側と医療側双方が、なぜ起こったのか原因究明を求めます。医療事故発生初期には、双方は対立関係になりがちで、医事紛争が生じます。また、患者側の怒りや苦悩が共有されず、一方、医療側も思わぬ結果にストレスに陥ります。

近年、両者が納得するよう関係を取り持つ「医療メディエーション」が試みられています。私は、4年前、たまたま日本医療機能評価機構による「メディカルコンフリクト」の研修を受けました。

研修で一番、得心したのは、同一物を見ても人それぞれ別のものに見えると説明されたことです。例えば、Bという形を考えてみましょう。12・13・14と並べれば数字の13に見えます。

しかし、ABCと並べるとローマ字のBと見えます。同一物を見ても違った物に見える、つまり、端的にいえば、人間は目で見ているのではなく、脳で見ているわけです。

この認識のクセを「認知フレーム」といいます。紛争を解決するには、相手の「認知フレーム」を知ることが重要です。相互理解のためには相手にはこちらの「認知フレーム」を知ってもらい、こちらは相手の「認知フレーム」に学んで物事を見つめ直すことが求められます。

例えば、手術によって死亡となった医事紛争を考えてみましょう。患者の家族は、激怒し、なぜ、こんな結果になったのか、治すつもりで手術を受けたのに絶対許せないなど医療当事者への憤りは想像を絶するものがあります。

当初は、医療ミスがある、ないという対立する構図ですが、相手の「認知フレーム」を尊重して話し合うことによって接近したものになります。

患者の家族は、死亡事故の原因を知りたい、二度と起こしてほしくない、適切な賠償をしてほしいと主張します。

医療側は、死亡事故の原因を究明したい、二度と起こさないように改善したい、非があれば賠償したいと極めて類似したものになります。

お互いが相手の「認知フレーム」を理解して、包み隠さず情報提供をすればするほど事実を共有するようになります。このようにより良い医療を築くため、患者側と医療者側の橋渡しを担うのが「医療メディエーション」の役目です。