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心不全と肺炎予防(2010年12月21日掲載)

今井 千春・今井内科医院

肺炎球菌ワクチンも有効

皆さん、心不全という病気はご存じでしょうか? 心臓はポンプの働きをして全身に血液を送っていますが、心不全ではポンプの働きが落ち、息切れや倦怠(けんたい)感、むくみなどが出てきます。高血圧や心筋梗塞など、いろいろな病気で心不全に至るのですが、20年くらい前は心不全はがんと同じくらいの死亡率であると恐れられていました。

最近は心不全の治療方法が進歩し、かなり予後も改善しました。また、暴飲暴食や過労、薬の飲み忘れに気を付けることにより症状の悪化を防ぐことができます。それでも冬の季節、心不全患者さんが肺炎になると大変です。心不全の治療は体にたまった水分を外に出すことが多いのですが、逆に肺炎治療では痰(たん)を出すために水分を多めに補給します。点滴が多ければ心臓に負担となり少なければ肺に負担が来るため、そのさじ加減が難しいところです。

今までワクチンといえば、インフルエンザワクチンが心不全患者さんに心強い味方でしたが、最近さらに強力な助っ人が登場しました。それが肺炎球菌ワクチンです。インフルエンザワクチンは毎年注射する必要がありますが、肺炎球菌ワクチンは一度接種すると5年間は有効です。

実は肺炎球菌ワクチンは以前からあったのですが「一生に一度限り」という制限がありました。「○○さん、とっても上等なワクチンがあるよ。これを打つと5年間は安心さ。でもこれは一生に1度しか使えないんだけど…どうね?」「はっさ、先生よ。自分の寿命はあと5年くらいと思っているのかね?」なんてやりとりを想像して、今まではなかなかこのワクチンを勧められませんでした。幸い昨年10月からは肺炎球菌ワクチンを接種してから5年以降に再接種できるようになり、このような心配は無くなりました。

成人用肺炎球菌ワクチンは65歳以上の患者さんで有効性が認められていますが、特に慢性の肺の病気の患者さんや心不全、糖尿病患者さんには効果的です。乳児を対象とした小児用肺炎球菌ワクチンも注目されていますが、成人用ワクチンとは含有する抗原の種類や量が異なっており、同一のものではありません。

成人用肺炎球菌ワクチンの費用は自費で1回7千円から1万円近く掛かることもあり、残念ながらインフルエンザ予防接種ほどには普及していません。現在沖縄県では与那原町、嘉手納町や久米島などの離島で公費助成を行っています。インフルエンザワクチンと同様に肺炎球菌ワクチンも公費助成が広がるといいですね。