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統合失調症(2010年12月7日掲載)

村上 優・国立病院機構琉球病院

治療効果の高い薬剤登場

統合失調症の罹患(りかん)率は1%ほどで最近は早期発見と治療、さらには副作用の少ない新しい抗精神病薬が数多く開発されて外来でも治療ができる疾患となりました。しかし一部には抗精神病薬が効かず治療に抵抗する統合失調症の存在も知られています。その原因はいまだ解明されていませんが発病後の未治療期間の長さに比例して治療が難しくなることが知られています。

統合失調症の治療は薬物療法を土台として、疾病についての理解を深める心理教育、生活技術訓練、認知行動療法、環境調整などの心理社会的治療が組み立てられます。これまでの薬物療法で改善が得られなかった患者さんに対し、効果が期待できる薬剤が登場しました。クロザピンです。これは1990年代から新たに第2世代抗精神病薬が開発されましたが、これらの薬剤でも効果を得られない患者さんにも有効です。しかし重大な副作用もあるために、他の薬以上に慎重さが必要とされ、使用条件を厳しく定められて認可されました。

クロザピンの使用対象は治療抵抗性統合失調症です。これは2剤以上の薬物を十分な量と期間使用しても改善が得られないか、震えなどの副作用のために十分な量を使用することができないと定義されています。これまでの治療内容を十分に検討してからクロザピンの適応が決められます。

治療効果の評価の高いクロザピンですが、白血球が少なくなり、特に顆粒(かりゅう)球がなくなる副作用が大きな問題です。有色人種では1%ほどに出現し、発見が遅れると生命にも危機が及ぶことがあるために、発生した場合に備えて血液内科医との連携をする体制を整え、白血球の検査を定期的に行いモニターする制度ができてから、実際の患者さんに使用することができるようになりました。2009年9月のことです。

当院では導入への準備を行い、本年3月より患者さんや家族に十分説明をした上で本格的な使用が始まりました。服薬を開始して18週間が過ぎると副作用の出現の危険性も大幅に低下し、また十分な量のクロザピンを服薬しているために、その状態の改善は目を見張るものがあります。クロザピンだけの単剤使用で、患者さんを苦しめていた幻聴や妄想が和らぎ、自然に話ができて、心理教育や環境調整への理解が進むなど効果が得られています。

これまで統合失調症の患者さんは、多くの壁を乗り越えて社会復帰を果たされています。社会的偏見も大きく、これは病気や残存する障害への不理解もあります。治療方法が前進することで少しでも難治性という偏見を払拭(ふっしょく)したいと思います。