臨床試験(治験)をご存じですか。臨床試験とは、ある治療法に本当に効き目がありかつ安全かどうかを確かめるため実際の患者さんで行われる研究です。
「患者さんで研究」というと、なにか人体実験のようでいやな感じを持たれるかもしれません。今日医学はとても進歩し、遺伝子や分子のレベルで多くの病気のメカニズムが解明されています。これほど医学が進んでいるなら患者さんを使った試験など必要ないのでは、と思われるかもしれません。しかし、安全で効果のある治療法を提供するにはどうしても必要なプロセスなのです。
以前乳がんの治療では乳房と胸の筋肉の一部をとる大きな手術が行われていました。確実にがんを取り去ることが根治の条件と考えられていたからです。それに対してがんのしこりのみを切除し、残った乳房に放射線を当てて再発予防をする「乳房温存療法」が開発されました。乳房を残せることが大きなメリットですが完治率に不安がありました。
そこで欧米で乳房切除術と乳房温存術を比較する大規模な臨床試験が行われ、両者の完治率に差がないことが証明されました。その結果、乳房温存術は標準治療となり、現在多くの患者さんが乳房を残したまま完治を目指すことができるようになりました。
「あるある大事典」という人気テレビ番組がありました。「高血糖の人がある野菜を1週間食べ続けたところ血糖値が改善した」、などという放送があった翌日にその野菜は売り切れ、という話をよく聞きました。しかし、このようなよい結果は「偶然」や「個人差」の可能性があるので、簡単に「効き目がある」という判断はできないというのが医学の常識です。
臨床試験では、これらの偶然や個人差が結果に影響しないよう、医者だけでなく看護師や薬剤師、臨床研究コーディネーター(CRC)、さらに統計学(数学)の専門家なども含めたチームで綿密に計画され、行われます。また試験に参加する患者さんに不利益やプライバシーの侵害などがないか、法律の専門家などからなる委員会で厳しく審査が行われます。
現在「標準治療」として認められ、行われているものの多くは、この臨床試験を経てきたもの、別のいい方をすれば、同じ病気でつらい思いをされた過去の患者さんの協力により完成し皆さんが安心して受けることができるのです。
もし、あなたやご家族が、「臨床試験に協力してもらえませんか?」と担当医から言われたら、ぜひ前向きに参加を考えていただければと思います。