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骨盤臓器脱(2010年9月28日掲載)

嘉手川 豪心・沖縄協同病院

膀胱・子宮が下がる

「膣(ちつ)からピンポン球のようなものが出ている」「股(また)の間に何かが挟まっている気がする」などの症状を誰にも相談できず、一人で悶々(もんもん)と悩んでいる方がかなりの数いらっしゃいます。尿がもれる、出にくいなどの症状を伴う場合もあります。これらの症状は骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)の症状です。

出産や加齢で骨盤底支持組織が弱くなり、ゆるんだり、すき間ができてしまったりすると、骨盤の一番下にある臓器が下がってくるのです。子宮が下がってくれば子宮脱、子宮の前にある膀胱(ぼうこう)が出てくれば膀胱瘤(りゅう)、子宮の後ろの直腸が出てくると直腸瘤と呼びます。

骨盤臓器脱は薬では治せません。治療の第一は手術です。脱出の状態は一人一人異なりますので、手術もその人に合った方法を選択することになります。手術ができない場合や手術までの一時的な治療としてペッサリーを挿入する方法があります。プラスチックでできた器具を膣内に入れて出てきた部分を支えるのです。うまく使うと不快感をかなり和らげることができます。しかし膣内に炎症や潰瘍(かいよう)を起こしてしまう場合もあり、すべての人にうまくいくわけではありません。

最近ではメッシュを使った「TVM手術」が行われるようになりました。TVMは「Tension−free Vaginal Mesh」の略で、編み目状のシート(メッシュ)を膣壁内に埋め込み、骨盤底の緩んだ筋肉を補強する手術です。利点としては、子宮を温存できる、再発が少ない、開腹手術が不要などが挙げられます。欠点としては、新しい術式なので長期成績が不明、メッシュへの細菌感染、直腸損傷などのリスクが挙げられます。

手術は全身麻酔で行い、1時間から2時間程度です。入院期間は6日間前後ですが、術後早期に腹圧がかかるとメッシュがずれて骨盤臓器脱が再発してしまうため、腹圧がかかるような運動(長時間の立位、しゃがんで草むしり、排便時のいきみなど)は術後3カ月ほどは控える必要があります。

外来を受診されて専門医から骨盤臓器脱の話を詳しく聞くことで、不安が軽くなり手術をせずに経過を見る方もいらっしゃいます。80歳を過ぎて手術を受ける方もおられます。骨盤臓器脱は悪性疾患(がんなど)ではないので本人が納得できる治療法を時間をかけて選択してもらえば良いと思います。

しかし骨盤臓器脱は一人で悶々と考えても悩んでも何も解決しません。悩んでいる方は「骨盤臓器脱かも」「子宮が下がっているかも」といった内容で、産婦人科や泌尿器科で相談することをお勧めします。