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成人病胎児期発症説(2010年9月7日掲載)

宮城 雅也・県立南部医療センター・こども医療センター

母親の栄養管理が影響

いま目の前にいる生まれたばかりの赤ちゃん。将来どんなになるのだろう。ご両親は、いろいろと想像して楽しいひとときを過ごします。「健康で元気でいればいい」と赤ちゃんを取り巻く人々は、健康づくりに一生懸命になるはずです。

しかし赤ちゃんが将来、成人病(生活習慣病)になるか否かは、生まれた後の努力だけで防げるものではなく、生まれる前から成人病の素因がつくられることが、最近は分かってきました。つまり成人病の素因が胎児期(おなかのなかにいる時期)からつくられていくという「成人病胎児期発症説」が注目を浴びています。悪いことにその素因は2〜3世代引きつがれていくのです。つまり赤ちゃんが健康でいることは、祖先より引き継いできた健康づくりの結果なのです。

戦争など厳しい食糧危機のとき、おなかの中の赤ちゃんは、生まれてからも厳しい食糧難が待っていると意識され、それに対応するように遺伝子が刺激されます。生まれる前から赤ちゃんは、生まれた後のこと考え準備をしてくるのです。少ない栄養をうまく活用できるように遺伝子の構造を変化させて適応していくのです。それが世代を超えて人間が存続するためのメカニズムなのです。

しかし、現在の飽食の時代に、妊娠前・妊娠中に無理なダイエットを行うと、生まれる前と後では、環境が全く違ってきます。栄養が足りなくて小さく生まれた赤ちゃんは、子宮の中の環境とは、全く反対な過栄養状態となり、肥満、高血圧、糖尿病、脳梗塞(こうそく)、冠動脈疾患、神経発達異常など成人病になりやすくなります。

このような遺伝子に影響をあたえる時期は、受精の時期(おめでたの時期)からはじまり、生まれてから数カ月までです。無理なダイエットで異常に痩(や)せているときの受精とか、また妊娠中に、体形を崩したくないと無理なダイエットを行うと、成人病の素因が赤ちゃんに埋め込まれます。このように妊娠前からのお母さんの栄養状態が、赤ちゃんの遺伝子に影響を与えます。母親になる女性の健康・栄養管理が、赤ちゃんの未来をつくるのです。

栄養状態が不良な母親からは、体重が少ない赤ちゃん(低出生体重児と呼ばれる)が生まれてきます。沖縄県の出生率は常に全国一高いのですが、低出生体重児の出生率も全国一高いという不名誉な一面もあります。これは沖縄の危機です。特に母親になる女性の栄養状態が赤ちゃんの未来につながることを考えて、母親の栄養管理は県民全体で見守る必要があります。