沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2010年掲載分 > うつ病

うつ病(2010年6月22日掲載)

仁井田 りち・南斗クリニック

「脳の疲労」と とらえて

Aさん(30代)は、3年近くうつ状態と慢性の首の痛みに悩まされていましたが、新薬デュロキセチン60ミリグラムが著効、「頭の中がすっきりし、痛みも改善」と述べ、仕事を続けています。Bさん(70代)はめまい、食欲不振で、救急病院に通い点滴ばかりしていましたが、寝たきりから復活し、家事も車の運転もできるようになりました。処方はわずか0・5ミリグラムのオランザピンという非定型抗精神病薬と、パロキセチン10ミリグラムの抗うつ薬と漢方薬の苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)の併用でした。

脳には多数の伝達物質がありますが、その中でセロトニン(抑鬱(うつ)、睡眠)、ノルアドレナリン(意欲、痛み)、ドーパミン(幸せ感)は人が生活して行く上で重要です。上記2人は脳の伝達物質に働く薬の中から適切な薬、量を処方したことで症状が改善したのです。

昨今「うつ病」という病気に関して、「誰でもかかる恐れのある心の病」と「心の病」が強調されていますが、「脳の疲労」ととらえると、もっと偏見を捨ててご理解いただけるでしょうか? 「ストレスをきっかけに脳の伝達回路の動きが悪くなり、セロトニンを補充する必要が生じた」「脳の伝達物質が減少し、意欲低下や、認知機能が落ちた」、この説明なら納得していただけるでしょうか。

睡眠薬を飲んでも効かない不眠は脳のセロトニンの減少、慢性の頭痛肩こりは、脳のノルアドレナリンやグルタミン酸の伝達が悪く、一の痛みを十に感じているかもしれません。

現在日本では脳のMRI(磁気共鳴画像装置)検査で海馬の萎縮(いしゅく)を客観的に調べることができるようになりました。海馬が萎縮していることは、今後認知機能の悪化(物忘れ)が予想され、高齢者の場合、脳のMRI検査は薬を選ぶ大事な検査となっていくことでしょう。

昔、血液検査もMRIもない時代、医者は「さじ加減」で処方の調整をしてきました。「脳に効く薬」こそ、一人一人にあった薬を、微妙なさじ加減で処方していく必要があります。

最先端の脳の画像診断も取り入れつつ、かつ患者さんの症状、生活状況を聞き取り、精神薬理に基づいてセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどに作用する薬をバランスよく調整する科、ストレス社会で脳が悲鳴をあげている人々へ「脳の疲労を改善し、心と体のバランスを整え治す科」が本来の心療内科の役割であること、決して対人関係の不満を受容するカウンセリングだけをしている科ではないことをお伝えします。