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カロリー貯蓄は人体の習性(2010年5月11日掲載)

益崎 裕章・琉球大学医学部第二内科教授

栄養過多の生活見直して

沖縄県は男女を問わず、日本の中で最も肥満が進行している地域です。体重(キログラム)をメートル表示の身長の数字で2回、割り算して得られる体格指数(BMI)は肥満度の指標として世界中で用いられていますが、BMIが25を超えると肥満とされます。身長が160センチの人なら体重64キロ、170センチの人なら体重72キロがBMI25です。沖縄県では2004年の段階でBMI25以上の男性が47%に達しており、第2位の北海道(35%)に比べても相当な差をつけての堂々の1位≠ナす。

肥満は糖尿病や心筋梗塞(こうそく)、脂肪肝、高血圧症、がんの発病を誘発することが知られており、適正な体重維持は健康長寿の鍵を握ります。

人はなぜ、太ってしまうのでしょう? この仕組みは人類が誕生してから今日までを1年に置き換えたカレンダーをイメージすると理解しやすくなります。図に示すように、人類の誕生後、6月の半ばに氷河期が始まります。氷河期が終わるのは12月31日の午前5時に相当することから、私たちの祖先は、つい最近まで、繰り返す寒冷と飢餓という過酷な環境を必死で生き抜いてきたわけです。その結果として、食べ物が得られたときにはできるだけエネルギーを蓄えて逃さない仕組みが何重にも張り巡らされたと考えられています。

このような仮説を支持する自然現象はたくさん知られています。たいした餌もない中東の砂漠に生息するイスラエル砂ネズミは低燃費で細々と生きている動物ですが、このネズミを捕まえて実験用の低カロリーの餌を与えると途端に肥満になり糖尿病を発病します。

アメリカアリゾナ州に住むピマ・インディアンは、もともと過酷な農作業をしながら質素な生活を送っていた痩(や)せたインディアン≠ナした。しかし第2次大戦後、少数民族保護政策によって住まいが与えられ、ピザや清涼飲料、砂糖が配給された結果、彼らの70%以上が重症肥満と糖尿病を発症しています。ピマ・インディアンの多くに、飢餓に対抗する節約型体質(遺伝子変異)が見つかっており、栄養環境の急激な変化に身体がついていけなかった結果と解釈されます。

フランス料理が始まってわずかに200年。一方、環境の変化に適応して遺伝子が変わるのには最低でも10万年かかります。沖縄は摂取カロリーの中に占める脂肪分の割合が突出して多い県ですが、月に旨(うま)いと書く脂≠フ取り過ぎは脳の食欲調節を狂わせます。皆さんの健康長寿のために、しばし人類進化の壮大な歴史に思いをはせ、日常の食事や生活習慣を振り返ることをお薦めします。