医学生のころに印象に残った講義がある。日本人の三大死因についての講義だった。言うまでもなく脳卒中・がん・心筋梗塞(こうそく)である。しかし病態としてみると脳卒中と心筋梗塞が動脈硬化に由来する。つまり三大死因の二つは動脈硬化によるものだというものだった。
動脈硬化といわれても一般の人にはピンとこないであろう。そのためであろうか、最近は「メタボ」という言葉が一世を風靡(ふうび)した。しかしメタボは動脈硬化の促進因子のひとつでしかない。
動脈硬化を促進する因子は多々いわれている。糖尿病・高血圧・高脂血症・痛風(高尿酸血症)・肥満・運動不足・喫煙などなど。残念なことに加齢も動脈硬化を促進する因子のひとつといわれている。
前にあげた因子のいくつかはそれぞれが密接にかかわっており簡単には切り離せない。その結果としていわゆるメタボ体型の人が多くなる。しかし「私はメタボ体型じゃないから」といって安心していいわけではない。動脈硬化の促進因子はメタボだけではないからだ。
人間の体には栄養分や酸素を運ぶ「道」としての動脈が通っていない組織はほとんどない。その大事な道としての動脈が道としての機能を果たさなくなったとき、その先の部分はダメージを受けることとなる。その結果として脳卒中や心筋梗塞などが起こる。
動脈硬化を完全に防ぐ方法はないのだろうか?
残念ながら今の医学では限界がある。
しかし、動脈硬化の進行を遅らせることは可能だ。それが糖尿病は高血圧などの慢性疾患の継続治療であり、暴飲暴食を避けることであり、運動の励行であり、禁煙などだ。
よく患者さんにこういう話をする。
「車は買い替えることもできるし、故障したら交換する部品もある。しかし人間の体はそうはいかない。新しく買うこともできないし、替えの部品も簡単には見つからない。けど、故障の大きな原因となる動脈硬化は進行を自分の健康管理で遅らせることができる。糖尿病や高血圧など慢性疾患のある人は治療をしっかり受け、適度に運動をして、暴飲暴食を避け、たばこをやめることです。
大事なことなのでもう一度言います。
あなたの体は一つしかありません。買い替えることもできませんし、替えの部品も簡単にはありません。
どうか一生大事に乗ってあげてください」