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目は口ほどにものを言う(2010年3月23日掲載)

早川 和久・早川眼科医院

糖尿病に網膜症の恐れ

糖尿病になると目が悪くなるという話を聞いたことがありますか。糖尿病で初めに傷む部分は、網膜の細い血管です。糖尿病の管理が不十分な場合、多量の糖が網膜血管の周りと、内張している細胞に作用して血管の老化を加速させます。血糖値やヘモグロビンA1c(赤血球に余分な糖が反応して作られる物質)が高い以外全く異常の見られない時期から、厳密な糖尿病管理をすることで網膜症の発症を予防できます。

糖尿病疑いと言われたが精査していない、糖尿病で薬を飲んでいるから生活習慣を見直さないといったことは、とても危険なことです。今のところ、眼底検査で異常が出る前に、細胞単位の異常を見つける方法はありません。

正常の網膜血管は、しっかり防水処理がされているのですが、糖による障害が5年を超えると血管の変形や血管から網膜への血液のしみ出しがみられるようになります(単純網膜症)。この時点で糖尿病コントロールがされないと、血管が詰まり十分な酸素が網膜に行き渡らなくなります(増殖前網膜症)。

網膜のうち、視力に最も影響する場所は、黄斑と呼ばれる少しへこんだ部分です。色や形をはっきりさせるために、この場所には網膜の血管がなく、網膜は奥にある脈絡膜から栄養や酸素をもらっています。このため、網膜の血管が完全に詰まり、新生血管(傷の修復のためにできる防水処理のないもろい血管)が多数生じていても視力だけは良いこともありますが、まもなく黄斑部の浮腫や網膜剥離(はくり)が生じることで急激な視力低下をきたし治療が著しく困難になります(増殖網膜症)。

レーザー光で視細胞を間引くことで酸素消費を抑え、血管新生の勢いや血管からの漏れを少なくする治療(光凝固治療)、新生血管や増殖膜を直接取り除く治療(硝子体手術)で失明を免れる確率が高くなりますが、治療前より視力は落ちたところで安定する場合が多いのが現状です。

光凝固すべき時期に治療を行った場合と、放置した場合の比較研究では、視力に関して術後半年は、治療群の視力が劣っていますがそれ以降は逆転しました。また、治療群で網膜症進行が停止したのに対し、放置群で新生血管の発生が確認され、急いで治療せざるを得なくなっています。

糖尿病だけど症状がないから、治療薬を飲んでいるから、少しぐらいコントロールが悪くても気にしないといった油断が、10年後の視機能に大きな影響を及ぼす事実から目を背けないでいただきたいと思います。