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月経随伴性気胸(2010年3月2日掲載)

川畑 勉・国立病院機構沖縄病院

30〜40代女性に多い

気胸の多くは肺の表面(胸膜)の嚢胞(のうほう)が破裂し、そこから空気がもれて胸腔(きょうくう)内に充満し、肺が圧迫され、虚脱した状態をいい、突然発症し、胸痛、呼吸困難などがみられます。多くはスリムな若い男性にみられる自然気胸ですが、女性にしか見られない気胸もあります。

月経随伴性気胸は子宮内膜症性気胸とも呼ばれ、胸膜や横隔膜に子宮内膜組織が存在し、これが子宮の内膜と同様に周期的変化を起こし、月経の始まる3日前から5日後くらいまでの間に気胸を起こします。30〜40代女性に多くみられ、ほとんど右側に発生します。また、血清CA―125(子宮内膜症のマーカー)が高値を示すことが多いのも特徴です。

成因はいまだにはっきりとしていませんが、考えられている機序としては(1)子宮内膜細胞が卵管から腹腔内へ逆流し、腹腔内を遊走し、生理的腹水の流れ(腹水は時計回りに還流する)に従って右横隔膜下で停滞することによって、右横隔膜に着床します。左側には横隔結腸間膜が存在するため左横隔膜には到達しにくいのです。その後、異所性子宮内膜病変として横隔膜に小孔(しょうこう)を作り、月経期に腹腔側から胸腔内に空気が流入し、気胸が発生するという説(2)血行性に子宮内膜細胞が臓側(肺側の)胸膜に移植され、月経期に胸膜が破裂し気胸が発生する―という二つの説があります。

治療は偽閉経療法というホルモン療法もありますが、肝機能異常、体重増加、にきび、更年期症状、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、脱毛、うつ症状などの副作用のため一般的には投与期間が限られてきます。治療を中止しますと再発することが非常に多いことから、私たちは胸腔鏡による手術を行っています。胸腔鏡手術は小さな傷(2センチ程度)2〜3カ所を利用して行いますが、光学医療機器の進歩で病変部をはっきり映し出すことが可能です。また、手術侵襲も小さく手術後の回復が早いのが特徴です。本症は自然気胸に比べ、術後再発が多いため手術においても胸膜擦過や医療用シートの貼付(ちょうふ)などの工夫が必要です。

少子化、初潮年齢の低下、閉経年齢の高齢化、帝王切開や人工中絶の増加による子宮内膜の損傷などさまざまな子宮内膜症増加の要因とともに月経随伴性気胸も増加が予想されます。

特に、20代後半から40代の女性の方で月経に伴って胸部違和感、胸痛、背部痛、呼吸苦、血痰(けったん)などがあれば月経随伴性気胸の可能性が十分にあることをお忘れなく。