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心筋炎(2010年1月12日掲載)

嘉数 朗・南部徳洲会病院

重篤化するタイプも

沖縄県も本格的な冬に入りました。例年この季節になると急に風邪が流行(はや)りだします。今年はテレビも新聞も新型インフルエンザの話題ばかりです。しかし毎年数は少ないですが「心筋炎」の症例がニュースで報道されているのを目にした方もいると思います。

ところで「心筋炎」と聞いてもピンとくる方は少ないのではないでしょうか。ほとんどの方は心筋炎とはとても特殊な病気でおそらく自分には全く関係ない病気というイメージを持っていると思います。そしてそれはおそらくお医者さんでも同じかもしれません。なぜなら急性心筋炎の初発症状は発熱、咽頭(いんとう)痛、消化器症状などが多く一般の風邪症状とほとんど見分けがつかないからです。

心筋炎の原因はウイルス感染によるものが多いため風邪が流行する時期に同じように心筋炎も発症することが多いと考えられます。医学書を読んでみると一般的な急性心筋炎では風邪症状や消化器症状が先行した後数時間から数日の経過で胸痛、呼吸困難、ショックなどの心症状が出現するとされています。しかしその症状はこれというきまったものはなく、ほとんど症状のない無症候性の軽症例から重症化するものまでさまざまです。

心筋炎があまり臨床で話題に上がらないのは一般的に急性心筋炎は発症してから何もしなくても1〜2週間で自然によくなるタイプが多く特に問題とならないためと思われます。ところが中には数は少ないですが急激に悪化し重篤になり死に至るタイプがありこれが心筋炎が実は恐ろしい病気である所以(ゆえん)です。そしてこのようなタイプは劇症型心筋炎と呼ばれています。劇症型心筋炎の発病は急速で、発熱から間もなく全身倦怠(けんたい)感が増強する過程で心不全や不整脈、胸痛などの心症状が現れ、血圧が保てないショック状態に至ると重症不整脈や心不全で死亡するという非常に怖い病気です。

劇症型心筋炎はこれまでまず助かることはない病気とされていましたが、最近の医療機器の進歩により補助循環装置を使用することで治療成績が良くなってきています。しかしそれでも40〜50%の死亡率があり、依然非常に致死率の高い怖い病気であることに変わりはありません。単なる風邪だと思っていても、血圧が低くなったり、脈が触れにくくなったり、全身倦怠感が強く著明な全身衰弱を認める場合は急性心筋炎を疑って心電図検査などを行うことが早期に診断するうえで非常に重要だと考えます。