沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2010年掲載分 > 血管内治療の進歩

血管内治療の進歩(2010年1月5日掲載)

我那覇 文清・県立南部医療センター・こども医療センター

大動脈瘤 切らずに治療

1960年代の米国にチャールズ・ドッターという天才放射線科医がいました。名優ユルブリンナーに似た風貌(ふうぼう)で、優れた登山家としても知られ、クラシック音楽をこよなく愛する多才な医師でした。

血管にカテーテルと呼ばれる細い管を通して検査することを血管造影といいますが、ドッターは当時病気の診断目的のみに使われていたその血管造影法を治療に応用することを考えました。手術をせずに血管内で病気を治療しようというのです。彼は動脈硬化などで狭くなった血管も、内側からバルーンを膨らまして拡(ひろ)げれば治療できることを示しました。現在では風船治療とも呼ばれ、とくに心臓の分野では世界中に普及しています。また彼は、狭くなった血管を内側から拡げるステントという埋め込み型の器具を考案しました。

血管内治療の扉はドッターにより開かれましたが、その後多くの先人の努力によって飛躍的な発展を遂げ、いろいろな病気が血管内で安全確実に治療できるようになりました。最近ではテレビの特番や雑誌にも登場する機会が増え、血管内治療という言葉も徐々に浸透しつつあるようです。

さて血管内治療の利点は、なんといっても「体を大きく切らずにすむ」ということでしょう。例えば大動脈瘤(りゅう)という病気があります。動脈の壁が弱くなることが原因で血管が徐々に膨らみ、ついには破裂する大病です。作家の司馬遼太郎さんや映画解説者の淀川長治さんがこの病気で倒れました。従来この大動脈瘤に対しては、体を大きく切って人工血管に置き換える外科手術が行われてきました。確実な方法ですが大手術となり、回復には数カ月かかることもしばしばです。

最近ではこのような場合にも血管内治療が可能になってきました。足の付け根の動脈を小切開し、ステントグラフトという器具を血管内で病変部に運び、それを拡げて動脈瘤を塞(ふさ)ぎ込む治療法です。傷が小さいため回復も早く、術後数日で歩け2週間程で完全に元の生活に戻れます。

ではあらためて血管内治療の対象となるものは、どんな病気でしょうか。首や脳、心臓、内臓、下肢などの動脈が狭くなって血流が悪い場合や、逆に膨らんで動脈瘤になり破裂の危険のある場合です。これらの血管の病気は主として動脈硬化によって生じますが、生活習慣病の増加や高齢化に伴って最近急増しています。もしそのような病気が見つかったら、血管内治療についても尋ねてみるといいでしょう。