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病気と年齢(2009年12月22日掲載)

石川 清司・国立病院機構沖縄病院

長寿の秘けつは「気」

最近、母親が100歳で天に帰った。人生という器の水の最期の一滴を飲み干して、静かに旅立った。明治、大正、昭和、そして平成。戦争を体験し、戦後の沖縄の貧困の時代を生き抜いた。この長寿の足跡には、難解な哲学の裏打ちは必要なかった。肉体のしがらみから解放される「老衰」と言う名の病態は、惜別の情というよりも、言葉には表現できない「安堵(あんど)感」を漂わせていた。秋の日の紅葉が、音を立てることもなく静かに散るように。

スポーツのトレーニング法は、持久力を養う長距離型と瞬発力を養う短距離型ではその手法が異なる。多分に「長寿」という坂道を駆け抜けるには、両者のバランスが重要な意味を持つのかもしれない。喜怒哀楽の明け暮れと称される坂道には、両者が必要であろう。

人の体は、必ずしもバランスよく年輪を重ねるものではないらしい。膝(ひざ)が先に年をとる(変形性膝関節症)、腰が痛む(骨そしょう症)、息が苦しい(肺気腫)、どうも頭が(アルツハイマー)等々、先に衰えをみせる臓器がある。

「がん」にもできやすい年齢がある。乳がんが30歳代から増加、50歳代でピークを迎える。子宮頸(けい)がんは20歳代後半から40歳前後まで増加し、横ばいになり、70歳代後半以降再度増加する。子宮体がんは40歳代後半から増加し、50歳から60歳代にピークを迎え、その後減少する。肺がんは60歳代から急速に増加する。基本的には40歳を境に、意識して「がん検診」を受けることが賢明な策である。

60歳代後半から70歳代の患者さんの「気」の持ちようには随分と差違がある。「もう年ですから」と手術を拒否する。しかもT期の肺がんである。片や、85歳のおばあさん。高血圧の治療中に肺がんが見つかった。周囲の反対を押し切り、自らの意思で手術を選択し、94歳まで元気に通院。その存在そのものが、周囲の人をして和ませる。

医学は着実に進歩している。私どもの施設での年間100余例の肺がん手術の中の約20人は80歳代の患者さんである。長寿県沖縄ならではの光景である。超高齢者の手術の成績はすこぶる良い。なぜなら、心肺機能に大きな問題のない、長寿の恵みに預かった選ばれた方々の手術だから。「気」の持ちようで人生が大きく変わる場面である。

与えられた器の水は、最期の一滴まで飲み干したい。「気」は、いつまでも若く。感謝の意をこめて。